男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『アンタッチャブル』★★★★

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デビッド・マメットの傑作シナリオ

1987年の夏にアメリカで大ヒットし、日本でも秋に公開されてスマッシュヒットになった作品。年代的にも今の世代には「名作」にカテゴライズされる可能性もある。劇場でも3回観て、ビデオのトリミング版を我慢して何度も観て(だって、当時はノートリミングなんて夢のまた夢だったのだ)、LDも買い、DVDも買った。

今回のブルーレイはアメリカで発売されたときにも欲しかったのだけど、ぐっと我慢して国内版をゲット。特にリマスタリングされた気配は無いんですが、精密な解像感や茶色系でまとめられた色彩とどす黒い血の色などが実に濃厚になっていてかなり満足度は高いです。dts-hd6.1chのサウンドも迫力満点。

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70年代でのカルト的な人気を経て、『スカーフェイス』あたりから大作志向と興行的なバランスが崩れ始めたデ・パルマ。そんな彼の起死回生となった本作(回生しても直ぐに落ち込んでしまうのが実にデ・パルマなんですけど)。手堅いとしか言いようのないキャストやスタッフからも、「失敗は許されない」状況がファンにヒシヒシと伝わってきた当時のデ・パルマが、そんな「後のない」状態なのにもか関わらず、実に攻撃的な演出を随所にみせる。

特に盟友スティーブン・H・ブラムと共に作り出した「極端な真俯瞰」や「演出上そこまでする必要は全くないと思える異様なアオリ」などの構図が素晴らしく、デ・パルマらしい「主観撮影」や「移動撮影」の妙さも堪能できる。意味不明の長回しで撮影していると思われるシーンもあるのだが、編集でインサートカットを入れられている箇所も多い。それでも、あんな大作なのにツーフィールドフィルターを使ってでも、コスナーとコネリーのツーショットで意地でもフォーカスを合わせようとするカットなど、デ・パルマ節が堪能できる。同シーンでみせる極端な広角ショットでシネスコいっぱいに捉えた二人越しに、だだっ広く広がる背景の美しい教会内部など、今観てもぐっとくる。

シナリオではカーチェイスだったが、予算の関係で駅入り口での銃撃戦になった有名な「乳母車の階段落ち」シークエンスは、そんな逆境を逆手に取るかのようにデ・パルマの才気が爆発した傑作。『戦艦ポチョムキン』の有名な乳母車のシーンを換骨奪胎して作り上げたシーンだが、キチンとモンタージュ理論を実践しつつ、スローモーションで全てのカットを構成するという、アクションシーンにおいては前代未聞な大胆さ。ネスが到着してから乳母車が登場し、焦らしに焦らしていよいよ次々と敵の一団が現れて周りに配置されていく辺りの積み重ねは身震いするほど。そして遂に自分が殴った敵の一人が彼に気づくまでの「お膳立て」の部分も完璧といってよく、ズームを使ったカットバックで緊張感の弓弦を極限まで引き切る手腕は見事というほかない。

スケールの大きい題材をマクロな視点で描いていく「大作のようでいて実はこぢんまりとまとまった映画」である本作だが、デビッド・マメットのシナリオがそれを巧妙にさばいてみせている。典型的な『七人の侍』から頂いているフォーマットであり、その人数も4人と実にコンパクトになっている。それでいて、ネス以外の三人のキャラクターが絶妙に描き分けられている。特に経理として送り込まれてきた助っ人のウォーレスが仲間になるくだりは抜群で、「あと一人欲しいな」と言った矢先に絶妙のタイミングで帳簿を持って入ってきた彼に、グイっとショットガンを渡すと、彼も彼で妙なその気を表して鼻息荒く続く。実にコメディとしてよく処理されているシーンで、仲間集めのやり方自体のバリエーションとしては実に素晴らしい。彼が居ることによる観客のアンタッチャブルに対する感情移入の促進は実に巧みで、それ故彼が突如凶手によって命を絶たれるシーンの残虐なデ・パルマ演出が光る。

アンディ・ガルシアを一躍トップスター(当時)に押し上げた銃の名手ジョージ・ストーンの登場シーンで見せるトラック・ショットのケレン味あふれるカッコヨサや、誰もが期待する彼の大活躍を乳母車の救出&銃投げまで引っ張る(しかもその後活躍しない!)大胆さも凄い。

ショーン・コネリーが演じる参謀役のマローンも「儲け役」としか言いようがないが、それを更に何倍も魅力的にしているコネリーの存在感も重要。子どもであるネスの擬似的な父親がわりとしての役割と、それを超えるための存在として、ストーリーに普遍的な感動を生み出している。

ロバート・デ・ニーロが出番もそれほど多くないのに、売れていない頃から世話になっているデ・パルマのためと言わんばかりに「また太って」「髪の毛まで抜いて」成りきったカポネも笑ってしまうぐらい美味しい。今観るとメソッド演技というよりは、「いつものデ・ニーロ」なのも微笑ましく、相変わらず「笑顔の異様な緊張感」がすべてのシーンで充満。映画冒頭での、うっかりカミソリで頬を切ってしまった床屋のシーンは誰もが「ヤバイ」と感じる。特に白眉なのは「バット殺人」のシークエンス。「笑顔のデ・ニーロ」のアップからディゾルブで始めるデ・パルマの「分かってる」ブリも相当なものだが、円卓に座った部下たちの背後を終始笑顔のデ・ニーロが、よりにもよって木製バットを持って練り歩くという、狂喜のハンカチ落とし。今でも劇場内の震撼が思い出せるほど壮絶なシーンだ。

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この映画を語る上で絶対に外せないのはエンニオ・モリコーネの音楽。パーカッションやピアノの低音連弾、不安定に刻まれるストリングスの音色を使った冒頭のテーマが強烈で、本編中でも緊迫感の高まるシーンに呼応するように顔を出して盛り上げる。かと思えばヒロイックなシークエンスで涙すら誘う勇壮なアンタッチャブルのテーマがまた良い。道路を横断するだけでも感動するというマジックが味わえる。

先述の「スケールが大きいように見せかけて実はこじんまり」という作品のスタイルをキチンと理解している名スコアと言えるだろう。

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パラマウント75周年として製作された本作ですが、今年はなんと100周年。もう25年前の映画になってしまいました。

特にBOXが出るような扱いでもない作品なのですが、リアルタイムで劇場で観た人間や、子供の頃にテレビで観てしまった子どもにとっては忘れられない傑作になるんじゃないかとボクは思います。


デ・パルマの映画では数少ない「まとも」な映画として、今となっては逆に貴重かもしれませんね。


興行的には期待はずれに終わった作品ですが、デ・パルマのもう一つの「まとも」な作品じゃないでしょうか。要所要所でデ・パルマらしさが爆発するという意味でも。


良くも悪くもデ・パルマの映画人生を狂わせた傑作。


ボクのデ・パルマ映画の原点。そして、一番好きな作品。