男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『リアル・スティール』★★★

ペーパームーン未来版

久しぶりに映画をハシゴ。ただ、途中で家に帰って昼寝などをしたおかげで体調は問題なし。やはり歩いていける距離にシネコンがあるのは幸せだ。

良くも悪くも予告を観た時の印象通りの映画でしたが、決してつまらない映画ではなく、観ていて大変気持ちのいいストレスのない映画でした。撮影も非常に丁寧ですし、牧歌的な未来感と、『ブロンコ・ビリー』などに代表される何だか暖かい地方巡業の雰囲気がうまく融合している前半部分は大好きです。
中盤で別れた妻の子どもを引き取るのですが、こいつが肉体派だが筋肉バカの親父と違ってゲーム世代の知性派。ただし、やたらと熱いハートを所持するガイなのが面白い。父親だろうと憧れている一流ロボットトレーナーだろうと色気ムンムンの金持ちオーナーだろうが、自分の意地を貫き通して拾ってきたロボット”アトム”を信頼し続ける。ダメおやじがこの子どもによって自分を見つめ直すというのは古典的だけど快感指数の高いストーリーライン。

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リチャード・マシスンの原作は読んでいるが、トワイライト・ゾーンの実写化の方は未見。ロボットが人間の代わりにボクシングをしているというアイデア以外はほとんど別物になっている。

リアル・スティールという響きのいいタイトルと、リチャード・マシスンの原作がこれを機会に再販されていることを考えれば充分映画化の意義は果たしているのだが、それだけで終わらず単体の映画としてなかなかのクオリティーを維持している佳作。

『ナイト・ミュージアム』で注目されたショーン・レヴィ監督の他作品は未見だが、ロボットによる格闘アクションにウエイトをおかず、父親が子どもによって更生するストーリーラインに重点をおいた手堅い演出をみせる。主に地方巡業で町を巡る描写や、ことさら未来的な風景を強調しないあたりなどのセンスは良い。かと言ってロボットによる格闘シークエンスもキチンとボクシング映画のセオリーを忠実に守った「観ていて何をしているのか」よく分かる正攻法の演出を提示していて心地よい。ただし、そのぶんケレン味には欠けるので、「せっかくだったら燃えたい」というロボット&アクション映画ファンの期待には残念ながら応えていない。

とは言え、マイクに拠る音声入力に異常をきたしたアトムを、彼の特殊技能である「シャドー機能」によっていよいよ親父自身が自分のボクシングスキルで操作するクライマックスは異常に熱い展開で、リチャード・マシスンの原作のもう一つのアイデアがここに変則的に登場するのは燃える。

だからこそ、シナリオ的にもう一つ「拾ってきたロボット」との友情なり絆なりをもっと見せて欲しかったという欲が残ってしまう。

全体のテイストとしては名作『ペーパームーン』の男の子版と言えるので、恐らくそういった部分はシナリオ段階でオミットされているのかもしれないが、つくづくアトムの使い方がもったいなくてならない。

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ダニー・エルフマンが久々に高揚するテーマを聴かせてくれて、クライマックスの高揚感に一役買っている。また、彼のもう一つの持ち味である暖かいテイストも前半部分で効果的に生かされている。

名手マウロ・フィオーレによる撮影はいつもの硬質なルックスを生かしつつ、夕焼けやサーカステント、寂れたボクシング・ジム、そして場末の闘技場などの寂れた雰囲気を魅力的に活写している。CGIとの合成を前提にした全体的な撮影の完璧な違和感のなさは『アバター』での経験が大いに生かされている模様。

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マシスンの原作ファンは間違っても過度の期待はしないだろうが、それとは別の「いい映画」感は十二分に味わえる思わぬ拾い物と言える。もっとも、子役のダコタ某はそれほど上手いとは思えないし、さして魅力的でもない。




この映画が一番影響を受けている作品は間違いなくこのボグダノヴィッチの傑作だろう。ただし、テイタム・オニール演じたアディの「やたらと頭が回って口が悪いけど可愛いガキ」という抜群の魅力は踏襲されていないのが残念。