男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『南極料理人』★★★1/2

うまそおお

ドラマの『南極大陸』を観ていたら、「なんか南極モノか堺雅人が出ている映画が観たいな」と思い、「そういえば」とこの映画を思い出した。公開当時から面白そうだったのだが、WOWOWで放送した時も後回しにしてとりあえずディスクに保存しておいたものだ。

完全に個人的なツボを突かれる映画でした。脚本と監督を手がけるのは沖田修一という人。日本映画に僕が求めている側面、「特にドラマがない」「演出に一定の距離感がある」「生活感がある」こういった諸々の好みがガッチリと僕のツボでした。

「特にドラマがない」という部分は、南極という言ってみれば「極限」の地が舞台にもかかわらず、基本的にご飯を食べてちょっと仕事してあとは大人の男たちがダラダラ遊んでいるだけ。これが強烈に良い。役者陣も肩の力を抜いたナチュラルな芝居をみせてくれる。また、映像的な「間」に重点が置かれた笑いがメインなのをよく理解していて、カット頭の「無」の佇まいがみんなやたらと面白い。

「演出に一定の距離感がある」のは、具体的に対象にあまりカメラが寄らないというのを始め、演出的にもどうでもいいカットが長かったり、FIXを重視した構図が秀逸。竹中直人の映画を思い出させる。役者の芝居に関しても露骨にキャラクターのバックボーンを滲ませるような事はせず、ただただ事象を並べていくだけで観客に提示していくのがスマート。

あと、一番良かったのは「生活感」

「料理人」とタイトルに冠しているぐらいですから、食べ物と食事が最重要なのは言うまでもなく、果たして全編「うまそおおお!」というシズル感に満ち満ちていました。近年稀なぐらい美味しそうな食事の数々とそれを食べる役者たちの「うまそさ」が堪能できます。堺雅人のおにぎりの握り方も完璧で、ただただ作られていくおにぎりが異様な「うまそさ」を醸し出していました。ガツガツ食べる食べ方も絶品。あと、脚本に関しても、「うまい」「おいしい」とかいうセリフが全編に渡って登場せず、たった一箇所のワンポイントにだけ使用されるのも上手い。「うまい」とか「おいしい」ってのはセリフで言うんじゃなくて、役者の食べっぷりや演出で観客に思わせる事が肝要。観ていて何度「美味しそう!」と言ったかしれない。ははは。

中でも白眉は「ラーメン」

あのラーメンのエピソードと、きたろうの「食べっぷり」は映画史に残ると言っても過言ではない「うまそさ」

観測基地のセット美術も特筆モノ。娯楽室の本棚の感じや、行き交うのもやっとな狭い通路、うんこする個室もみんなに丸見えな化粧室などなど、どれもこれも生活感たっぷり。

また、淡々と同じ日常を描写しているように見せて、主人公西村の作る料理が時間が進むにつれて変化していき、他人同士だったキャラクターたちが、共同生活を(一緒に食事をとる)していく内に段々と擬似家族のようになっていく様を映像で具体的にみせていく手腕は素晴らしい。特に最後の食事シーンはFIXによるワンカットの醍醐味と、巧みな伏線の活かし方が見事だった。


いやあ、久々に面白い日本映画を観られて大満足です。

<旨ドラ>