『下町ロケット』を読みました。傑作!
理想的なエンターテインメントの傑作
<ネタバレなし>
ボクは「好きな映画を一本だけ選ぶとしたら?」という質問があったら、こう答えると決めている映画があります。
「そりゃ『ロッキー』でしょ」
と。
勿論他にも山ほど大好きな映画はありますし、自分を映画に目覚めさせた『ジョーズ』もそうでしょう。
そんな中、『ロッキー』は、ボクの中にあるエンターテインメントの理想を結晶化したような作品なのです。小学6年生の時に観て以来何度観たか分からないほどなのですが、何度観てもその「結晶化」ブリには毎回驚かされる。
作劇の最優先事項は言うまでもなく「一行でまとめられるプロット」であり、それを生み出すことはありとあらゆる発明に等しい。
『ロッキー』は荻昌弘先生が言っているように「人生するかしないかの別れ道で、するという方を選んだ勇気ある人たちの物語」なのだ。
この「勇気ある人たちの物語」。『ロッキー』はロッキー個人にチャンスが舞い込むストーリーですが、『ロッキー』が何よりも素晴らしいのは「ロッキーが周りの人々と共に頑張る」話しだからです。
『ロッキー』で一番素晴らしいシーンは、借金取りにまで成り下がったロッキーに愛想を尽かして喧嘩別れしていた老トレイナーのミッキーが家に訪ねてくる場面です。ミッキーは「手のひらを返しておこぼれに与ろう」と思われるのを承知で、ロッキーにトレイナーの必要性を必死に説く。もちろんロッキーもそのことを充分に分かっているが、意地になってミッキーに辛くあたって追い返す。去っていくミッキーに聞こえるように今まで思っていた憤懣を(自分に対するものでもあるのですが)洗いざらいぶちまけるロッキー。階段で立ち止まってそれを聞いているミッキー。次のカット、ロングの全景ショットでとぼとぼと歩いて行くミッキー、突然ロッキーの家の扉が開いてミッキーに追いつくと、何やら話をしてガシっと握手を交わす二人。ロッキーは吹っ切れたように晴ればれとミッキーに手を振って家に戻っていく。カメラは一切動かないフィックスのロング。セリフも入らない。ビル・コンティの優しい音楽と、背景を通り過ぎていく電車。
『下町ロケット』を読んでいて何度も『ロッキー』を観ている時の感動が蘇ってきます。
物語の普遍的な面白さと頼もしさ、エンターテインメントの快感と醍醐味がタップリと凝縮している傑作です。主人公を軸にして、その周りに居る「勇気ある人たち」の物語で喝采をあげてしまう。
ボクのシンプルな判断基準の一つに、「思わずガッツポーズをとってしまう」というのがあります。シンプルですが、実は数えるほどしかそういう作品にはお目にかかれません。
『下町ロケット』は前半で一回、クライマックスで二回もガッツポーズをとってしまった稀有な作品です。
むっちゃくちゃ面白いです!!