男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

吉村昭の『羆嵐』を読む

羆嵐 (新潮文庫)
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吉村 昭
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昔の作品だと思ったけど、『ジョーズ』の頃に書かれたのね

ちょっと理由があって再読。

やっぱり最高。しょっぱなからずっとクライマックスなんですよねこの本。有名な『三毛別羆事件』を元にして書かれており、ほとんどルポルタージュのように淡々とした筆致が生み出す圧力が凄い。

昔読んだ時は、事件の起きた時代背景と混同して、かなり昔に書かれた本だと思っていたんですが、奥付を見ると1977年に出版されているんですね。企画とかそういった背景には1975年に公開された『ジョーズ』があるんじゃないかと思っているんですが、吉村昭氏が『ジョーズ』を観ているかどうかは知りません。

前半の凄惨な獣害描写と村のパニックぶり。警察関係が導入されてもまったく役に立たないところへ羆狩りの名人が呼ばれてやってきて、区長がビビりながらも独り協力して二人で羆退治に乗り出すという後半。

羆狩りの名人銀四郎が荒くれ者という設定(でも、登場してからクマを対峙するまでは冷静沈着でプロ中のプロなのが無茶苦茶カッコイイ)、官僚と村民の間で板挟みになりながらも責任感から自分を奮い立たせて銀四郎に協力する区長など、明らかに『ジョーズ』っぽいんですよね。これで「羆の専門家」が登場すれば完璧なんですが、そこは史実に基づいているので。

もちろん吉村昭氏独特の余計な描写を省きつつ独特の盛り上げ方で燃せさせる筆力は圧巻で、映画と比べるのはナンセンスなんですけどね。

この区長のビビリっぷりが絶妙なリアリティで描写されるのが実にいい。落ち着いている銀四郎に安心感を覚えて意気が上がるけど、銀四郎がクマの痕跡を見つけて「近くにいる」と分かるや再び血の気が引きはじめ、いざクマを目の前にすると彼の腰にしがみつく始末。でもあの状況だったらそりゃビビるに決まっているという描写が説得力抜群なので、彼への感情移入が猛烈に促進される。

銀四郎のプロフェッショナルぶりも実に燃えで。単発のライフルなので、予備の弾丸を2つ指の間に挟んでおくんですよ。もうカッコイイ。弓矢の達人が何本も予備の矢を指に何本も挟んで次々と番えていくのに似てます。

オススメです。


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こちらは同事件の文字通りドキュメンタリー。こちらも読みたいです。


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