男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『絞殺魔』★★★

トニー・カーティスがすごい

とっくにDVD化されていたんですが、やっと今日観ました。ははは。

リチャード・フライシャー監督は『ミクロの決死圏』や『トラ・トラ・トラ』や『海底二万里』などの大作を多く任される大味な監督というイメージが個人的にありますが、バイオレンスやサスペンスなどで殆ど日本で知られることのない傑作を数多く作っている事でも知られています。ボクなんかも『ミクロの決死圏』は大好きなんですが、その他の作品のイメージはほとんど残っていないぐらいですし、この『絞殺魔』も『恐怖の土曜日』も『見えない恐怖』も名前だけは知っていたというような印象です。

というわけで、この『絞殺魔』。実際の事件を元にした作品で、最初こそミステリーか刑事モノかと思わせるような展開なのですが、マルチ画面で同時間軸の別のアングルを挿入する超クールな演出が冴え渡り、グイグイと引きつけられていきます。音楽もほとんど使用されず、画面には常に張り詰めた空気が流れています。主演のトニー・カーティスが犯人役なのは分かっているのですが、本編の半分まで登場しません。シルエットや足元、そして背中などで登場するのみです。ジョージ・ケネディが演じる刑事や、マレー・ハミルトンの刑事が次々と胡散臭い男を捕まえていくんですが、どいつもこいつも犯人じゃない。
そして、ヘンリー・フォンダ演じる検事が登場して、さあ名探偵登場かと思わせる……こともなく、相変わらず事件はまったく進展しない。


<以下ネタバレ>


そして場面は一転してトニー・カーティス演じる犯人側に移っていきます。このあたりのケレン味のなさはなかなか新鮮で、最初からミステリー的な娯楽性は排除している。しかも、こいつがちょっとしたドジから「別件」で警察に捕まってしまうあたりも、実話らしくてリアリティ満点。

エレベーターの中でこのトニー・カーティスヘンリー・フォンダジョージ・ケネディが遭遇して、「もしや」というくだりが痺れるほどかっこいい。もちろんケレン味ゼロ。見ている方は「ええ!? スルー!?」と思うんですが、病院の外の車のところまで来て、二人が顔を見合わせる。実に上手い。

そして、事件を解決するのかと思いきや、ここから終盤はまさにサイコ・サスペンスという展開を迎える。

なんと、トニー・カーティス演じる犯人は二重人格だったんですね。今となってはベタ中のベタな設定ですし、原点である『サイコ』からしてそれがメインのギミックだったわけですから、当時としてもベタだったでしょう。ただ、ヘンリー・フォンダが「裁判の証拠として使わない」という条件で、二重人格の疑いのあるトニー・カーティスを尋問するくだりが結構な尺を使って描かれ、ヘンリー・フォンダの葛藤とかも混じってくる。そして、何よりフライシャーの演出がクールなんですよ。トニー・カーティスの記憶の再現の中にヘンリー・フォンダが実際に登場して、尋問室のセリフをキチンと喋ったりするんですね。前半のマルチ画面の技法がここで逆転して、彼の主観映像に現在の状況がそのまま混じってくる。

このあたりの「実験的」な技法は、本作の二年前に作られた『ミクロの決死圏』でも結構多用されていて、あちらはSFっぽさのフレーバーとして機能していましたが、こちらはでもっと直接的に犯人の多重人格をそのまま映像表現として用いているのが斬新。

幕切れも実に不気味で、トニー・カーティスが人格転移の瞬間を長回しの中でズバっと演じているのも素晴らしい。観ていて「あ、変わった」って分かるんですよね。

奥さん相手に別人格が顔を出す瞬間の極端にパースの効いたセットの使い方なども相当クールな演出でした。


これは、ホントにフライシャー侮りがたしということで、早速録画してある『見えない恐怖』を次に観ようかと思います。