『英国王のスピーチ』★★★1/2
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第二次世界大戦前夜のイギリス
基本はコンプレックス克服系の筋立てなのですが、ボクは身分の違いを超えた「友情もの」としてかなり楽しんでしまいました。
ジョージ5世の次男であるアルバート王子が、吃音で「演説」がうまく出来ないのを克服するために、オーストラリア出身の言語聴覚士ライオネルと共にそれを治した実際のお話が元になっています。
時代背景が第二次世界大戦が間近に迫る不穏なイギリスなのが大変魅力的で、ニュースフィルムでヒットラーの演説を観たアルバートが「何を言っているの分からないが、演説が上手い」という場面が大変印象的。演説の良し悪しは言葉の壁を超越して聴衆の心を動かす「力」がある事と、その力の持つ「重要性」を端的に表していて巧い。ボクも様々な映画で様々な「スピーチ」を観てきましたが、セリフの力に加えて、「役者」の力も大きく関わってくるシーンですからね。『ブレイブハート』のメル・ギブソンの演説とか、『王の帰還』のセオデン王の演説なんか鳥肌が立つし、『フィラデルフィア』のデンゼル・ワシントンや、『静かなる決闘』の三船敏郎なんか号泣モノです。
アルバート王子を演じたコリン・ファースの芝居がまた良くて、内向的な性格の中にも激しい気性と共に威厳がちゃんと備わっているのが端々に滲み出ている。並大抵じゃないプレッシャーが常にあるだろうに、周りの人間がまた(誇張されているとは言え)さんざんガミガミと圧力をかけてくるのが可哀想になってくる。コリン・ファースは、吃音で上手くいかない幾つかのスピーチと、ベートヴェンの第七番の第二楽章が絶妙な使われ方をされるクライマックスのスピーチを、極めつけの繊細な芝居で魅せてくれます。
同様にライオネルを演じるジェフリー・ラッシュも魅力的なキャラクター造形と相まって、大変魅力的な芝居を見せてくれます。また、喋らずにじっとしていたり、街角の人ごみの中からアルバートを見守っていたりといったシーンでも抜群の眼の力を発揮して、ラストでもそれは効果を上げています。
大主教が冗談で使う「言葉もありません」というセリフ通り、言葉に頼らない芝居が二人とも実に達者なんですね。
アルバート王子の奥さん(エリザベス二世のお母さん)を演じたヘレナ・ボナム・カーターもさすがの底力を発揮して、軽々と見事な存在感を生み出しているのが凄い。いつもは普通の奥様のように見せて、一旦一般の人の前に立つと威厳とユーモアを同時に発揮してみせる。
ダメ兄貴を演じたガイ・ピアースも磐石の「ヘタレ感」を飄々を演じて美味しい。まあ、難を言えばコリン・ファースのお兄さんには見えないということだろうか。若く見えちゃうんですよね。
個人的に第二次世界大戦前夜のイギリスの状況が描かれただけでも大変興味深く、チャーチルも美味しいところで登場するし、戦争状態に突入したときの緊張感や、戦争前夜の不穏な雰囲気が見事に演出されていたと思います。ロンドン名物の霧を効果的に使ったロケーション撮影のシーンなどは大変見事な仕事と言えるでしょう。
また、一番印象深いのは、どんな時でも皮肉やジョークやウィットを交えた切り返しを必ずする英国人魂ですね。あれは見習わなければ。
あと、やっぱり美しいイギリス英語が堪能できるのも最高ですね。もっとずっと聴いていたいと思わせてくれます。
本編では子どもとして登場した、女王エリザベス二世をヘレン・ミレンが演じてアカデミー賞を受賞した作品。録画してあるのでさっそく観てみよう。
撮影現場での脚本の変更をほとんど認めない黒澤が、シナリオ集で読んでもほとんど直しをいれているクライマックスでみせる三船敏郎独白シーンが素晴らしい。黒澤自身も撮影中にガタガタうるさいなあと思ったら自分の体が震えていたと回想しているぐらいです。
セオデン王が絶体絶命の劣勢で軍団を鼓舞する演説がとにかく最高に燃える。
演説といえばとにかくこれですね。
YouTubeで大量にパロディ動画を生み出した傑作。それだけブルーノ・ガンツの演じるヒットラーの切羽詰まりまくった血の出るようなスピーチは絶品。