『クレイジー・ハート』★★★1/2
コリン・ファレルが初めてカッコよくみえた
ジェフ・ブリッジスがアカデミー賞主演男優賞を受賞した映画なので観ました。
ジェフ・ブリッジスはボクの中のトラウマ映画『キングコング(1976)』で主演を努めていた役者さんです。小生意気にもボクはお父さんのロイド・ブリッジスのファンで、『暴走パニック超特急』や『フライング・ハイ』での彼が大好きでした。なので、「ジェフ・ブリッジスってロイド・ブリッジスの息子だったのか」と後から知って驚いたもんです。だって、『キングコング』はヒゲもじゃで誰だかよく分からないんですもん。
後年『ジョーズ』のフーパー役をオファーされていたけど断ったとか、どうでもいい情報ばっかり知っていたんですが、ある映画を観てから彼のことが大好きになったんです。それはマイケル・チミノ監督のデビュー作『サンダー・ボルト』。
クリント・イーストウッドの映画はテレビでやればなんでも観ていたので、これもその内の一本でした。素晴らしい映画で、『ダーティー・ハリー2』の脚本を手がけたマイケル・チミノをイーストウッドが気に入って監督をさせた作品なんですが、ニューシネマっぽさが少し残っていてほろ苦い映画なんですよ。大好きなジョージ・ケネディも出ていたりして。ジェフ・ブリッジスはひょんなことからイーストウッドと出会う「ライトフット」という若者を演じているんです。これが飄々としつつも印象深いキャラで、原題が『THUNDERBOLT AND LIGHTFOOT』となっているように、主人公のひとりなんです。
そこからはジェフ・ブリッジスはロイド・ブリッジスの息子でも、『キングコング』のヒゲもじゃでもなく、ボクにとってはライトフットになりました。
前置きが長くなりましたが、『クレイジー・ハート』です。
『アイアンマン』で久々に見たジェフ・ブリッジスはえっらい老けていて、軽いショックを覚えたんですけど、お父さんのロイド・ブリッジスとはぜんぜんタイプの違う「味のある老け方」をしていて(ロイド・ブリッジスは気づいたときには老けていた)、「ジェフ・ブリッジス良くなったなあ」とまた生意気な事を思っていたんですね。そしたら、あれよあれよと「新生ジェフ・ブリッジス」とばかりに出演作が目白押しになったと思えば、今回の『クレイジー・ハート』で主演男優賞を受賞じゃないですか。
映画自体、なんだか今のボクのフィーリングにフィットしそうだと思ってたんですが、案の定「味のある映画」に仕上がっていました。
”アルコール中毒になりながら小さなツアーをひとりで回っている、かつて人気のカントリーシンガーが、ひとりの女性と知り合って再起する”という、悪く言えば「よくある」ストーリーなんですが、これが余計なエピソードが殆ど無いシンプルな構成になっているのが大変良い。たいてい「大失敗」したり、とんでもない不幸が襲ってきたりするんですが、この映画ではどれもが「ちょっとしたこと」ばかりで、美しいアメリカの風景の中に溶け込んでいるかのようです。そういう余計なハラハラがないだけに、ゆったりとストーリーを楽しめる。「再起する」って観る前から分かっている映画なので、主人公のバッドの歌を聴きにきている観客のように、観ている方も「ゆったり」とした気分で楽しめる。
常にズボンをだらしなく緩めていたり、シャツがよれよれだったりするジェフ・ブリッジスはもちろん最高なんですが、『ダークナイト』で唯一「損な役」だったマギー・ギレンホールが大変美しく、クリストファー・ノーランって女性を撮るのが下手なんだと気づきます。助演女優賞にノミネートされたのも合点のいく、繊細の芝居をみせてくれます。
そして、全然出ているのも知らなかったコリン・ファレル(実際特別出演みたいな扱いらしいです)。主人公のかつての弟子で、今や大ヒット歌手になっているトミーを演じているのですが、彼が実に「美味しい」。初めてあの眉毛がカッコイイんだってわかりましたよ。普通なら「恩を仇で返す」的な役回りなのに、彼が本当にイイヤツなのもポイント高い。
そうそう、この映画は悪い奴がひとりも出てこないんですよ。それがたまらなく今のボクには好ましい。
おすすめです。
Crazy Heart (Original Motion Picture Soundtrack) [Deluxe Edition] - Various Artists
カントリー・ソングの事なんて全然知らないんですが、この映画で唄われる歌は全部いい歌ばっかり。アカデミー賞の主題歌賞も受賞していましたね。