男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

時をかける少女

やっとことさ観てきました。混んでいる映画館が大嫌いなので、とてもテアトル新宿では観る気がおきなかったところ、今週から少し遠いのですが、シネプレックス新座で上映が始まったので行ってきました。一応事前チケット購入をしたのですが、夏休みだけど平日だから空いていると思ったら、これがまた結構人が入っていて驚きました。さらに驚いたのは、絶対にこの映画が目的でわざわざやってきたと思われる”そっちの”匂いの強い人たちが大なり小なり揃っていて面白かったです。やっぱり混んでいるところはいやだよね。

また、ヘラルド系列の劇場なので、独自の音響設備HDCSも気になっていたのでちょうど良かったです。単純に音の迫力が結構あって、ユナイテッドシネマ入間とは雲泥の違いでした。座席は正直しょぼくてお尻が痛くなりますけどね。

映画自体は実はちょっと微妙なところがあって、簡単に書くのは難しいです。冒頭から中盤(具体的にはプリンを食べる直前)までは終始「えええ……ちょっと大丈夫かコレ?」という感じでしたが、そのプリンを食べるシーンぐらいからは楽しかったです。
ただ、チャンネルを合わせる必要がないと完全にニュートラルな状態で臨んでいたので、結構あわててしまいました。

<以下ネタバレと個人的に思った問題点>

ボクが一番映画に求めているのは”感情移入”して楽しむことなのですが、細田監督の『ぼくらのウォー・ゲーム』などは凄くそれが出来ていただけに、今回の映画も絶対に大丈夫だろうと思っていたのです。

ところが、この映画にはボクの感情移入を促すものが足りず、妨げるものが非常に多かったのです。

以下列挙

  • ヒロインのキャラが恐ろしくステレオタイプの元気ドジ娘キャラだったのと、同級生男子二人と”友だち関係”で仲良くキャッチボールっていう部分。

勿論個人的嗜好があることは言うまでも無いのですが、それを差し引いても最近の「元気キャラ」偏重には嫌気がさしているだけに、「細田よお前もか……」と思わざるを得ませんでした。よく考えたらオリジナルは一本もないし、『ワンピース』も『デジモン』も主人公キャラはそれこそ典型的な元気キャラだったのですから、それが直接の原因ではなく、多分声優の芝居がアニメの元気キャラを演じている節がモロに出ていたからなのかもしれません。やはり田中真弓藤田淑子のように、オリジナルではないからなのでしょう。

この映画には「青春映画」としての側面を過分に期待していたのですが、男三人とキャッチボールではあまりにもリアリティが無さ過ぎます。ボクの好きな本当の青春映画というのは、映画の中に引き込まれて、ずっと一緒にその青春を体感できなければいけないので、感情移入を妨げられると一切それは認められないです。具体的に言うと、クライマックスで挿入歌が流れて三人の出会いから現在まではフラッシュバックされるシークエンス。あそこ自体は演出技法的に半ば鉄板と言っても良い意味合いで感動できるのですが、そこの役割を冒頭部分で描いて欲しかった。最初から仲の良い三人をポーンとみせられても、こっちとしては疎外感しか感じられないんですね。中盤で告白されてそれをうやむやにしたはいいけど、やっぱりそれはそれで気になって意識し始めてと言う展開が、折角の王道なのにボクにはもう「ふううん……」としかとれないんですね。

  • 季節感の欠如。

セミが鳴くだけなのはもう論外として、だからせめて汗をかけといいたい。大粒の涙は最近の流行なのかもしれないから別にいいんですが、全編汗かけといいたいです。シャツをバサバサしろと思うし。常にグビグビなんか飲めと。陽炎描写はベタとしても夏の日差しが感じられないんですよね。入道雲があっても空が青くても、それは画的にそうしたいだけとしか思えないし。プールが出るなら水面はギラギラすべきだし、コンビニやカラオケボックスにはいったら涼しさに脱力すべきだと思うんですよね。第一夏の学校ってお金持ち学校じゃない限りは蒸し風呂でしょう? もっとみんなノートで扇いで欲しかった。夏の季節感がこの映画には必要な要素だと思うので、記号でも何でもディティールを積み重ねて欲しかったと思うのです。
百歩譲って三人でキャッチボールはいいとしても、その季節感が出せればそれで世界に感情移入させてもらえたのにと思うと本当に残念でした。『デジモン』はお約束に頼らずに生活感が出せていたので、そこを端折ったのは凄く寂しいです。せめて画的にもコントラストのきつい画作りがあってもよかったのではと思うのですが。

  • 食べ物が美味しくなさそう!(プリン以外)

タイム・リープまでして食べに戻る鉄板焼きは言うに及ばず(何だあのドロみたいな肉!)、スイカは水気ないし(細く切り過ぎ)、凄く大きなホットドッグみたいなサンドウィッチもパンがカサカサだ! 折角お土産に持っていった桃なんて皮もむかないし。汁ジュルジュルしたたらせて頬張りなさいよ元気キャラなんだから。『ハウル』を降ろされたのはベーコンを不味そうにしたからじゃないかと思えるほどでした。


とは言え、先にも書いたように、プリンを食べたくてタイム・リープを二回もするあたりから『時をかける少女』のメインである時間軸の行ったり来たりが面白くなってきて、自転車事故のプロットがどう展開していくのかと言う辺りのプロットは引き込まれました(でもあの電車の前に吹っ飛ぶカットって、明らかに向こう側に飛び越えて助かってるようにしか思えないんですが……)。
そのプリン自体も他の食べ物に比べて目も覚めるほどおいしそうに描写されていて、そりゃこのためならタイム・リープ二回もするよなと思えました。色とかプルプル感とか、あのカップのフタ!
でも冷静に考えると、ヒロインは時間を逆行できるみたいですが、あそこだけ元の時間軸に戻っていて変ですよね。戻ったら時間の流れは上書きされると解釈していたのですが、そう考えると未来人の来た未来もどうなるのかなあって。ドラえもん方式でゴールは同じ理論なのかな。自分のタイム・リープで記憶が継続しているのは納得できるのですが、未来人の起こしたタイム・リープでも記憶が継続しているのは変ですよね。まあ、映画の面白さにはあまり関係がないですけど。

細田守監督の作品はいくつか観ていて大好きだったし、ようやくメイン・ストリームに躍り出た作品と思って鼻息荒く観に行っただけに、残念な部分が目に付いたのですが、持ち味である広角レンズを意識したショットや、シンメトリーの構図、夕焼けの美しさや、過剰に画面を占める空の入れ方、ポンポン同芝居を繰り返すテンポ、真っ白い空間の中を蠢くCGと言うデジモンやその他の映像作品でも観られたモチーフは凄く良かったと思います。バイブしている机の上の携帯を、ベッドの上をゴロゴロ転がって取るなどの芝居付け等もかなり良かった。

この作品の成功で次回作は必ずあると思うのですが、今度こそオリジナル作品で徹底的に自分の世界にこだわった作品を見せて欲しいと切に願います。

・・・

タイム・リープ―あしたはきのう (上) (電撃文庫 (0146))
タイム・リープ―あしたはきのう (下) (電撃文庫 (0147))

高畑京一郎さんの他の作品はちょっと好みでは無いのですが、初めて読んだこれは凄い傑作だと思っています。『時をかける少女』にもこの小説のような一体感を期待していたのです。

時をかける少女 [DVD]

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ボクはこの映画のいわゆる信者ではないのですが、やっぱり原田知世演じるあのオドオド少女はたまりません。五郎ちゃんと幼馴染っていう設定も非常に重要だし(友情じゃない!)、記憶を消していくっていう設定が凄まじく切ない。あれはアニメにも欲しかった!

ボクが観た細田守作品の中では最高傑作。40分弱の話なのにドンドン肥大するスケールの話を、マンションの一室と島根の田舎に居る小学生たちが全力で何とかするという素晴らしいプロット。テレビ・シリーズを観ていないとキャラ設定が判り辛い(そもそもデジモンが何かもよくわからない)し、今観るとネット関係に時代を感じさせますが、そんなのは瑣末なこと。