男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

宇宙戦争★★★1/2

スピルバーグは戦争映画を子供の頃から作っているわけなのですが、「プライベート・ライアン」で戦争映画の演出を根底から覆してみせた同じ方法論で、今度は宇宙人侵略を描くというのが今回の映画のポイントです。

原作は古典的でアウトラインもオチもそのままなのですが、映画は近年まれなほど原作に忠実にしているのが(時代設定は現代で、舞台もアメリカですが)ある意味新鮮でした。

とは言え、この映画の見所と言うか、スピルバーグが見せたかったのはあくまで宇宙人侵略の描写であって、他は全て付け足しと考えていいと思います。なので、ボクもはじめから他のところはあまり興味がなく、侵略シーンのみを楽しみにしていました。

果たして前半部分の市街地にトライポッド(宇宙人の侵略メカ)が現れてから、終始巨大な恐怖が迫ってきている感覚が強烈に演出されていて大満足でした。

<ネタバレ>

トライポッドの登場シーンの焦らし方が凄くて、地盤沈下から道路の亀裂、教会の建物の半分が地盤ごとずれて鐘楼が太陽を隠していくあたりの描写は圧巻。周りの人間の(トムを含めて)どうしようもないパニック描写も素晴らしくて、巨大な物体を前にして凍りついたように動けず、ただただ事態の衝撃から生じる動物的な行動しかとれないあたりが抜群です。

いよいよトライポッドが殺人ビーム!を撃ちまくるあたりは壮絶で、バンバン!と血袋が破裂するように、瞬時に灰になって爆裂するビジュアル・イメージが非常に恐ろしく、残った衣服がフワフワと降り注ぐあたりも今までにない恐怖感満点。加えて物理的攻撃も凄まじいビームが町を蹂躙していくなかを、命からがら逃げ惑うトムのシークエンスは絶品で、白兵戦を史上最強に緻密に描いた「プライベート・ライアン」に続いて、兵器による圧倒的な破壊描写と、その中で逃げ惑う人間の恐怖を冷徹に描写してくれます。
家に戻ってきたトムがショック状態でなかなか我に返らないあたりも、お約束と言う感じはあるもののリアリティ抜群で、娘にちょっと触られただけで極端に驚く描写も非常にいいです。
あらゆる電気装置が故障した状態で、車も動かなくなっている状況の中、車マニアである適当な設定を活かし、事前に修理のアドバイスをしていた他人の車へトム一行が周りを気にしながら進むあたりもリアリティがあって緊迫します。*1

車に乗ってレーザーの波状攻撃から逃げるあたりも、似たような描写が氾濫する中で、レーザーそのものを見せずに破壊された物体の描写が背後から迫ってくる恐怖感が優先されていて良いです。

フェリー乗場のシークエンスは頂点と言ってよく、フェリーへ殺到する人々の背後から恐怖感抜群の咆哮と共に山を越えて現れるトライポット! 「早く乗せろ!」とお約束の恐慌をきたす人たちや、海面からも現れてフェリーを無残にひっくり返すあたりの容赦なさは息を呑みっぱなし。海水に落ちた車に押されて水中に沈むトム親子のシークエンスも、車の中の人たちがあっという間に水没していく描写や、海面からトライポッドのツルで引き上げられるあたりは身震いするほど怖かったです。やっと陸に泳ぎ着いても、トライポッドたちが見る見る現れて休む間もない絶望感。

全体を通してトムの視線で物語が進行する性質上、実際のカメラの視線もトムの目線を守っています。なので、侵略の描写が非常に生々しく感じられるのがスピルバーグの狙い通りで最高でした。ヤヌス・カミンスキーの寒々とした撮影も、戦争映画というジャンルでは猛威を振るっており*2、丘の向こうで壮絶な戦いが繰り広げられているのを闇夜を照らす光と、地面すれすれのトラックショットで切り取るあたりは唸るほどでした。ただの丘が物凄く怖い場所に思えてきます。
スピルバーグが製作前に明言していたように、現在の地球が侵略されるのをリアリティたっぷりに描くという意味ではここらあたりまで、完璧といっていいと思います。政府の描写が一切ないのも最高でした。あくまでもトムの視点オンリー。
宇宙人が地球人の生血を吸い取るあたりも原作に忠実で、その血をばら撒いて自分達の環境に適するようにまいた赤い植物の栄養にしている設定も子供の頃観れば間違いなくトラウマ必至の凄まじさ。スピルバーグがファミリー層にまったく媚びてないあたりに誇りというか、性根の悪さを痛感。夏休み映画なのに!
とまあ、「ハーフライフ 2 日本語版 (CD)」の異様な強大物体の描写をまんま実写でみせてくれた点や、咆哮のオリジナリティや巨大さを描写するお手本のような演出の連発加減や、戦争と言うものに対するメタファーなどなどから、スピルバーグとしての「ゴジラ」と解釈するのが正しい見方だと感じました。「もののけ姫」のクライマックスで宮崎駿デイダラボッチの演出でみせた巨大感を凌駕するような演出が堪能できたのが満足です。

ただ、小屋に逃げ込んでから、ティム・ロビンスが登場するシークエンスは緊張感も持続せず、全体的なセット臭さや宇宙人のデザインの拙さも加えて何とも画竜点睛に欠くと言う感じで残念でした。あそこは要らないんじゃないかなあ……

とは言えスピルバーグの戦争映画を観たいと思っている人は間違いなく満足できる出来だと思います。

あ、最初と最後のナレーション処理も、時代錯誤な感じですこぶる大好きです。あそこらあたりだけ古典SFを映画化しましたぞいって感じがして笑えます。いや、好きなんですけど。

*1:周りの人間にも恐怖を感じるあたりは、中盤でも描写されますが、個人的にはもっと突っ込んでもいいんじゃないかと思いました。

*2:ここも、トムが丘にあがって、トライポッドが巨大な姿を現すまで一切直接描写なし。