男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『インポッシブル』★★★1/2

津波体験映画

と書くと不謹慎きわまりないと思われそうですが、この映画はそういう映画なのだから問題なし。

恐らく東日本大震災を体験したから不謹慎とか思うだけであって、3年前なら何の疑問も抱かずに「ライド感覚」で観に行く種類の映画だし、東京も含めて実際に津波を体験していない日本人にとっても基本的には同様だとボクは思う。

そんな不謹慎な観客に、肝が冷えること疑いなしの「大津波体験」をさせるのだから凄まじい映画です。基本的にはスピルバーグが戦争映画を「恐怖映画」として作った『シンドラーのリスト』や『プライベート・ライアン』と同様のアプローチであり、個人的には実に正しい。この映画も、観客に言葉や理屈ではなく強姦のような豪腕さで有無を言わさず「津波の被災」を体験させ、作り手の意志を表現しているのだ。「表現」ってのは常にそうあるべきで、良かれ悪しかれ受け手を「傷つけて」なんぼなんですよ。

で、

この映画が優れているのは、先に書いた「津波で被災した家族」の一員に観客がなれることで、演出面でも徹頭徹尾その方向でブレがない。

前半の見せ場である大津波襲撃パートに関しても、序盤の幸せいっぱいののんびり観光ムードのテンポ、ことさら煽ること無く「その朝」が始まっていくスムーズさ。そういった部分から突如始まる「予兆」の演出が絶品。伏線としてはってあった本のページが風で舞い、赤い(警告色)のボールがコロコロと転がるショット、最小限の積み重ねを経て、唐突に津波が襲ってくる。

ナオミ・ワッツ扮するお母さんが津波に飲み込まれるシークエンスの演出も完璧で、映像は突如暗転し、真っ暗闇の中で壮絶な音響演出で「濁流に翻弄されている」疑似体験を観客に強制し、時折濁った水中の濁流が映るだけの描写が延々続く。これぞ「暗闇の映画館」でしか体験できない映画ならではの演出。

息子とともに濁流に押し流されていくシークエンスも、延々と「そりゃそうだろう!」という痛さ爆発の描写が抜かりなく配置されつつも、阿鼻叫喚の地獄絵図はあえて最低限しか画面には映らないのもスマート。その分ナオミ・ワッツの人体損傷の特殊メイクがやたらとリアルに行われているのも実に巧い。

医者であるナオミ・ワッツが子供の助ける声を聞きつけると、「そんなのにかまっていたら僕らが死んじゃうよ!」とぶちまける息子に、「それでも助けないと」と切々と説くシーンは胸にグっときすぎて涙が出そうでした。この映画では、イワン・マクレガー演じるお父さんのパートである後半も、「被災者同士が助け合う」「現地の人が助けてくれる」という描写がイチイチ胸にぐっとくる。

ボクは『デビルマン』(漫画)や『ミスト』などの「人間不信」描写も大好きですが、基本的に「人類の力」を信じているので、こういう描写を躊躇わずに描くのにはグっとくるのです。そして、家族と連絡を取りたい人がいたら、躊躇わずに携帯電話を差し出せる人間になろうと思わせてくれる、こういう映画が大好きですよ。

飛行機でやってきて、飛行機で去るという物語の構成も大正解で、実に良い映画を観たという余韻を胸に劇場をあとにしました。


やっぱり未曾有の大災害に負けない「映画力」ってのはいいもんです。

ミニチュアと本物の水が生み出す迫力はとてもCGIでは出せないですよね。