男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『アルゴ』★★★★

世界中がベン・アフレックに土下座するなか、風をひいてしまってなかなか劇場へ行く事ができなかったのですが、やっとこさ観てきました。口コミなのか場内はなかなかの入り。

シネスコサイズの画面に懐かしのワーナー・ブラザーズのロゴが登場した時点で、「こりゃイケるな」と確信しました。余談ですが『燃えよドラゴン』もこのロゴじゃないとダメだよね。

時代設定は1980年初頭。イランアメリカ大使館人質事件の最中に、大使館から脱出してカナダ大使公邸に匿われた6人の男女。映画はその6人を救出するために、その道のプロであるトニー・メンデスが考えたハリウッド作戦を描く。

トニー・メンデスが息子と電話で話している最中に『最後の猿の惑星』を観ていたことから、メイクアップ担当のジョン・チェンバーズを仲間に引き入れて、「カナダの映画撮影のためにロケハンに来たことにして、そのまま6人をスタッフとして連れ帰る」という作戦を思いつく。

これだけ読むと、ハリウッド得意のコメディになってしまいそうな題材なのですが、ベン・アフレックのアプローチはまったくそうではなかったのが非常に重要。

「見つかったら公開処刑」(クレーンに吊るされる)という極限状況と、そこに単身乗り込んで6人の救出に文字通り命を賭ける主人公、そしてアメリカ本土で彼らの作戦を懸命にサポートする仲間。この3つの要素が絶妙に絡み合い、クライマックスに向かってひたすら緊張感の焔も燃え上がらせる。

これですよ、コレ!!

こういう映画が観たかった!!


<以下ネタバレあり>


まずベン・アフレック演じる主人公トニーのキャラクターが非常に熱い。成功の可能性が低く、しかも、失敗すれば自分も死ぬという作戦を、プロフェッショナルな態度で立案する前半。そして、いよいよ単身極限状況に乗り込んで、一度は6人を見捨てて=一人助かる状況になったのにも関わらず、一晩悩んで「やる」と決意する。アメリカの仲間であるジャックに電話一本で「責任は俺がとる」と言い残して行動に移るあたりが激しく燃える。

そして、その電話を受けたジャックが、一旦は中止命令が出された作戦を駆けずり回って再起動させるサスペンスが同時進行で描かれる。『ドライヴ』でも印象的だったブライアン・クランストンがここでも、情に厚いCIAという珍しいキャラクターを熱演。CIAとか言うと陰謀だったりスパイだったりという浮世離れしたイメージを喚起させますが、この映画ではあくまでも役所の一部門という雰囲気をガッチリと描写することで、リアリティ抜群のサスペンスを生み出しています。

この遠く離れた土地を同時進行で描きながらギリギリと締め付けるようなサスペンスを生み出すベン・アフレックの演出力が実に見事。見せるべきところを見せ、ギリギリのところを省略する。

撮影のロドリゴ・プリエトもそれに応えて絶妙な極限状況を見事に活写している。イランの描写ではザラザラしたフィルムの質感を前面に押し出し、アメリカ本土ではHDカメラによる綺麗なルックスと安定したカメラで明確に描き分ける。

前半部分はジョン・グッドマン演じるジョン・チェンバーズとアラン・アーキンが飄々と演じる海千山千のプロデューサー二人が架空の映画をでっち上げる下準備をネチネチとユーモアたっぷりに描き、後半は救出作戦の趨勢と6人の正体がバレるかもしれない描写をネチネチと執拗に描いていく。

特に白眉なのは「子供たち」を使ってシュレッダーで裁断された細かい重要書類を再現させるシーン。細長い短冊をパズルのように少しずつ組み合わせていくパラノイア的な描写は個人的にたまらないものがありました。子どもたちがどこか楽しそうに作業しているのをお母さんが優しくサポートしている様が、実は6人の命のカウントダウンに直結しているブラックさが強烈。そして、クライマックスでいよいよ一人の面が割れてしまい、空港へ向かって収束していくハラハラドキドキの時間進行を、これ以上ないほど的確な交錯のテンポで描いていく。この辺りの質の高いサスペンス演出は見事としか言いようがない。全編でキチンとどこで誰が何をしているのか、そしてどこでどうしてどうなれば助かるのかを明確に(そして、最小限の要素で)描いているからこそ観客は混乱する逃げ道もなく、ひたすら6人の決死行を見守るしか術がない。これぞサスペンスですよ。

いよいよ助かったことがわかる瞬間を登場人物と分かち合えるこの幸福感。


加えて、この映画は「クズ」のようなSci-Fi映画として企画された『ARGO』という映画を媒介として、80年代初頭という『帝国の逆襲』前夜を見事に描いているという部分でも特筆されるべきです。

僕は81年に映画に目覚めたので、残念ながらこの時のハリウッドが持っていたSF映画に対する(スター・ウォーズに対する)熱い何かを知らないのですが、ベン・アフレックは強烈にその時のたぎりを今でも身に残しているんでしょうね。

その証拠に、クライマックスの同時進行の構成は、そのままデス・スター攻略のヤヴィンの戦いにソックリですし、もっと言えばスター・ウォーズのクライマックスはどれも、同様の同時進行構成なのですから。

それをラストの横移動で写されるフィギアの数々で物語る語り口!


オープニングとエンディングを手がけたカイル・クーパーも実にいい仕事でした。


本当に没頭できる作品を観たい人には強烈におすすめできる傑作サスペンスです。


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ベン・アフレックの評価を決定づけた作品。こちらでは『ヒート』愛を炸裂させていたベン。