男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『Re:LIFE~リライフ』★★★1/2

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J.K.シモンズの正しい使い方

監督・脚本のマーク・ローレンスと主演のヒュー・グラントは大々大好きなコメディ『ラブソングができるまで』のコンビで、その後『噂のモーガン夫妻』につづいて今回で三作目。

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「当時のヒット曲を同窓会で歌って糊口をしのいでいる、元アイドルデュオの落ちぶれた片割れ」という、設定だけで勝ったも同然のヒュー・グラントが堪能できる傑作


前作「噂のモーガン夫妻」でローカルネタを描いていたローレンス監督が、今回はそれに加えて『ラブソングができるまで』のプロットを自身の「脚本家」としての職業を題材に描いた作品ということになるのでしょうか。

今作ではヒュー・グラント

「一本だけマグレで大当たりした脚本家が、落ちぶれて地方の大学の教師になる」

という、これまた絶妙な一行プロット。そして、そのままヒュー・グラントのキャラ設定になっています。

とは言え、今作はロマンチック・コメディではりません。基本的には自身の出身地と母校を舞台にしていることからも、監督のマーク・ローレンス自身をモチーフとして落ち着いたルックを持つコメディになっています。

やはり自分の畑である「映画」が題材の中心になっているだけあって、要所要所に思う存分「映画ネタ」が盛り込まれており、映画ファンとしては非常に楽しく観ていられる。そして、その分余裕があるのか前作の「噂のモーガン夫妻」に比べてヒュー・グラントの軽口や皮肉も思う存分楽しめます。

ヒュー・グラントの大ファンとしてはそれだけでも十分お釣りが出るほど楽しめたわけですが、今回監督がとんでもないキャスティングをやらかしていまして。


お馴染み『セッション』のJ.K.シモンズが

「家族の話題になるとすぐに涙目になってしまう家族愛溢れすぎる”元海兵隊”の学長」

という、書いていても笑いが止まらない、スパイスにしては効きすぎの設定を引っさげて登場するんですよ。


いや、そこは上質のコメディなので、サラっと描かれるんですが、そのくだりはとにかく明らかに他のくすぐりのシーンとはケタ違いの笑いを映画にもたらしていて、作品そのもののバランスを崩しかねない面白さになっています。

<以下少しネタバレw>


「最速で28秒で泣いたことがある」と教師に笑いのネタにされるほどの「過剰な家族愛」を持っているというギャグが、とにかくどれもこれも大笑い疑いなしの凄さで、ホントちょっとした「くすぐり」としての機能を逸脱しているんですよ。

当然ヒュー・グラントも調子に乗ってくるので、真面目な話をしていたところからの「家族への愛」をサラっと引き合いに出すや、画面の端でチラチラと時計を見る(何秒で泣き始めるのか数えてるwっw)。

しかも、「わたしは素手で君を殺せる」とあの顔でサラっと口にするシモンズですから、からかう人たちも命がけなんですよねw 本当に気づかれないようにチラっと時計を見る。これがイチイチ笑わせる。

この後5秒で涙目w

「時計!!!ww」

と何度も声に出して突っ込んでしまいましたw


いやあ、もうアレは反則。

キャスティングが先なのかネタが先なのかはわかりませんが、何れにしてもアレを思いついたのは今作のローレンスの勝算だったことは確かですね。それぐらい作品自体も筆が走っています。


<ネタバレ終了>

マーク・ローレンスの持ち味である、「とにかく掘り下げない」という極めてサラッとしたタッチが今回も上手くいっていて、中盤のお約束であるモンタージュシークエンスなんかも「そんなにトントン拍子に仲良くなるなよ」と笑ってしまうんですが、そういうテンポや軽さのほうがこの作品の強みになっていますし、観ている方もそういうものを求めているので、ウィンウィンですよね。


今作は現在第二の黄金期に突入したと言っても過言ではないマリサ・トメイがまたまた美味しい役どころでヒロインを演じているんですが、あの妙齢でチャーミングってのは現在のハリウッドで大きく取り込まれているキャスティングだと思いますので、彼女はその路線の先鋒として頑張って欲しいですよね。

作中で皮肉として語られる「強い女性が出てくるエッジの効いたコメディがいいんですよ」というセリフに主人公はウンザリしているのですが、それを逆手に取るように女性がキチンと機能している今作を作っているあたりはなかなかのスキルだと思います。

なにより「脚本家」として「脚本」をモチーフにするには相当の覚悟が必要だったと思うわけですが、それでもなお「ライト」なタッチを崩さないローレンスは筋金入りだなと感心してしまいます。


もちろんいつもどおり「傑作」ではないのですが、毎度楽しいヒュー・グラントと結構な打率で上手く笑わせてくれるユーモアとジョーク、そしてJ.K.シモンズの掟破りのギャグ、などなどがこの作品を得難い作品にしているのは確かです。

ウェルメイドなコメディを堪能したい人にはオススメです。


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言うまでもない傑作ですが、この映画でアカデミー賞を受賞したことをそのまま自身のイメージに利用して、相変わらず脇で笑わせるコメディに出演し続けるシモンズが素晴らしいですな。