『ドラフト・デイ』★★★
盛り上げるところで盛り上げるサリエリ映画の傑作
「最後はグワーッと盛り上がって終わる。まさに”サリエリー!”だね」(アマデウスでモーツァルトがサリエリにいう感想)
ストーリーテリングには「類型的」な「型」があります。方程式のように当てはめていけば観ている方は一定の満足感が得られるという、マヨネーズつければなんでも美味しいみたいなやつです。
ただ、それが分かっているからといって、それをキチンとできるかは別問題。
ハリウッドは、基本的にそういった「類型的」な作品をたくさん量産していますし、そういった作品の製作を得意とするスタッフが大勢いることも強みです。もっとも、そういう作品は映画ファンにとっては「退屈」なだけの作品になることもしばしば。そりゃ、「類型的」な作りですから先の先まで読めますし、「最後はグワーッとが盛り上がって終わる」のがわかっていますから。
とはいえ、ロマンティック・コメディがそれこそ、そういう「型」を守っていないとジャンルですらなくなるのと同様、そういったストーリーテリングを最大限きちんと機能させると十二分に満足感の得られる作品になることも事実でして。
この『ドラフト・デイ』はまさにアイヴァン・ライトマン監督の職人芸を堪能できてニコニコしてしまいました。
先ず時間設定をタイトル通り「ドラフト・デイ」の半日に設定していることで、ダラダラとして展開をギュっとしめていますし、様々なキャラクターが絡み合うのを最小限の説明で配置していくのも絶妙。マクガフィンともいうべき「緑のメモ」なんかの使い方や引っ張り方も上手い。
そして、重要なのは、クライマックスの展開に緊張感をあまり持ち込まなかった余裕。セオリーで言えばもっとカットバックや何かでグワーッと盛り上げるところを、ライトマンは大人の節度で適度に展開させています。ほら、「類型的」なストーリーテリングだから、コスナーの決断なんて観客全員がわかっていますからね。これも「観客を信用している」からこそだと思います。そこでライトマンはその後の展開にこそ盛り上げどころを持ってきて、チーム全体のグワーッに重心を置いています。これが観ていて実に気持ちがいい。散らばっていたキャラクターが一同に介して引きの画で「イエエイ!」となる。これぞハリウッドの王道であり、強みですよね。観ていてこっちも楽しい気分になれます。憎まれ役もちゃんとニコニコしてみんなハッピーでエンディング。
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さらに楽しかったのは、文字通り縦横無尽に駆使される「ワイプ」処理の面白さ。近代の技術の向上を巧みに利用して、ワイプの画面を人物がはみ出てもう一方の画面に入っていたり、通りすぎて元の画面に戻ったり、コミックのコマ割りを彷彿とさせる自由なイメージは非常に楽しい。
それにしても、アメフトなんてルールもろくに知らないし、ましてやドラフトなんて仕組みもちんぷんかんぷんな自分でもこれだけ楽しめるのですから、情報の伝達と省略の巧みさは相当なものなんでしょうね。それもこれも、肝心な部分は「登場人物」という記号を中心にしているからなんでしょう。そして、それらを丁寧に配置して絡めていくシナリオと演出が上手いからこれだけ楽しめてしまう。こういうテクニックはどんな題材にも応用がきくわけですから、ハリウッドの職人監督の腕には尊敬の念すら覚えます。
オススメです。
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ライトマンの職人芸が涙が出るほど堪能できる名作。100%保証付きで楽しめる作品というのはなかなか凄いことなんですよ。しかも、特にこれといって話題にも上らないという潔さ。