男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

シネスイチ板橋プログラム18『ジョーズ』その1


ブルーレイ・ファーストインプレッション

全世界待望、全映画ファン注目の『ジョーズ』ブルーレイがついに国内発売になりました。

Amazon限定スチールブック仕様は相変わらずの安定感。お馴染みのポスター図版で、海の色が緑タイプ。個人的にはお馴染みの青が好きですが、これはこれで味があります。

何はともあれ4Kスキャン&レストア、7.1chリミックスサウンドを施された本編を120インチシネマスコープで視聴してみました。


遂にシネスコサイズのオリジナルアスペクトでハイビジョン視聴できる感動! このばきばきシネスコ構図を観よ。


大量に現存しているネガの中から選りすぐり、それを4Kスキャンした上で1フレームずつレストアするという、大作名作のブルーレイ化では定番の処理が施された『ジョーズ』、制作から37年を経過して遂にそういうお色直しされるような名作になったという証拠でしょう。

テレビ放送から30周年DVD-BOXまで、ほぼすべてのパッケージメディアを観てきた人間にとっては、よくぞここまで綺麗になったと感動しますし、ペカペカの現代的な高画質という方向性でもない、70年代の映画特有の荒々しいフィルムのルックスもそのまま再現されているのは凄いです。ハイビジョンになったことの恩恵は各カットそれぞれのディティールがあますことなく再現されていることでしょう。血の色にしか赤を使わないように指示したスピルバーグの意図通り、濃厚な赤色が再現されているのもブルーレイ化の恩恵。


今回初めて大画面で視聴したということもあって、今まで気づかなかったモブシーンのエキストラの動きや、ジョー・アルベスによる異様に作りこまれたオルカ号の細部がよく分かりました。


3つのタルをつけても全く歯がたたない。この俯瞰ショットでは、コクピットから覗くクイントの動きがよく分かります。


ほとんどがロケーションによる撮影ですが、炎天下のショットでは90年代以降のスピルバーグ(具体的にはヤヌス・カミンスキーと組んで以降)にはほとんど見られない自然光そのままの映像が観られるのも特色。影が少なく悪く言えばテレビ的なルックス。ただしトゥーフィールドフィルターを使ったり、移動撮影や望遠ショット、スピルバーグの大好きな広角レンズによるショットなどなど、パナビジョンカメラを思う存分使った変幻自在なカットの数々は初期スピルバーグならでは。


水の絶妙なグラデーションもハイビジョンになると生々しさが素晴らしい。サメが初めて観客の前に姿を表わすショット。犠牲者に静かに迫る、化物としか形容のしようがない描写が完璧。


幾つかのショットではレストアでも処理しきれないピンぼけのカットがあるが、これは撮影時からそうなのでどうしようもないでしょう。

逆に言えばオール海上ロケーションでよくもこれだけスピルバーグの無茶な要求に応えているとビル・バトラーとカメラ・オペレーターのマイケル・チャップマンを褒めるべきでしょう。

後半の洋上シークエンスでは「手持ち撮影」を使う事を提案したビル・バトラーに、スピルバーグは不満があったそうですが、ラッシュを観ると満足したそうです。ヒッチコックに傾倒し、ガチガチのカメラワークを要求したであろう当時の若きスピルバーグにとっても、この手持ちによる躍動感溢れるショットの数々は目を見開かされる思いだったのではないでしょうか。近代では主にドキュメンタリータッチのために多用される手持ちカメラ風ショットですが、『ジョーズ』ではオルカ号に観客が同乗している感覚を共有するために非常に効果的です。全ロケーションによる撮影も水平線の動きや常に前後左右に揺り動く小道具などが実に効果をあげています。


シネスコをめいいっぱい使った固定ショットでも、キチンとカラビナがグラグラと船の動きと同期している。こういった地上で別撮りしてしまいそうなショットだろうとちゃんと海の上で撮っているからこそ生まれるリアリティ。


今回初めて擬似映画館であるホームシアターで鑑賞すると、やはりスピルバーグが狙っている「水面ギリギリで捉えたショットの圧迫感」が随所で体感できました。これはもう感激といってもいい。要所要所で挿入される大俯瞰ショットも大海原に浮かぶオルカ号の小ささが強調されて実に効果的。


海洋大バトルの興奮


超有名なブロディ署長の目の前に突如現れるサメのショット。NGシーンがいくつも残っているように、本編に使われたこのショットは、ロイ・シャイダーの振り向くタイミングと、サメの目線がピッタリ一致して完璧。水面からグワッとサメが顔を表わす透明度の具合も抜群で、水面スレスレまでサメの姿が見えないよう光源も計算されている。ロイ・シャイダーを入れ込まないと意味が無いショットだけど、これを撮るためにどれほどの苦労があったのか。ただ、それだけの効果を生み出していることは言うまでもない。


黒澤信者であるスピルバーグだけに、基本的には勝手にカメラが動いたりしない。常に観客の視線誘導は画面内の導線に基づいている。


名シーンである「7メートルはある!」「9メートルだ……重さ3000キロ」のカット。ここでも身を乗り出したフーパーがちゃんとクイントの方へ視線を誘導してセリフを言い、それに合わせてカメラがクイントとブロディのツーショットへ移る。主人公なのにプロに挟まれてピンポン玉のように弄ばれる署長がぼーっとしているのも最高。


「比較するものが無きゃ大きさが分からないだろう!!」「ふざけんなっ!!!」


スピルバーグが脚本家としてカール・ゴットリーブを雇ったのは作品にユーモアを入れるためだったそうだ。娯楽映画に大切なのは「緩急」におけるギャグがどれぐらい観客を笑わせて息を継げるようにするかですが、この『ジョーズ』はそれがことごとく上手くいっている。基本的に海洋サスペンスもしくはホラーというジャンルの映画であるにも関わらず、スピルバーグが最初から最上の娯楽映画を目指していたことがよく分かる。


ロイ・シャイダーが疲れて頬杖をついているのを、子役の子が真似していたのをそのまま本編に使った名シーンや、フーパーが「金持ちなのか?」と訊かれて「ボク個人? それとも一族?」とか、クスクスと笑わせたりするシーンも数多く入れられている。

そういった緻密な笑いの要素が、いよいよ終盤になると一切無くなっていき、事態が最悪の状況に突き進んでいることが観客に嫌というほど伝わってくる。全体を計算した上で配分されている凄さ。


遂に一人きりになってしまった署長が、いよいよ一対一の対決に挑むクライマックス。ここでもロングショットのシネスコ構図と海上ロケでしか生み出せない海の作り出す光の美しさが絶品。敵との距離を明確に最初のショットで提示しているスピルバーグの丁寧さが最近のガチャガチャ何をしているのか分からないアクション映画とは違う点だ。サメとブロディの距離がどんどん狭まっていくのを切り返しのショットのフレームを狭くしていく事で表現し、それが異様な緊迫感を生み出している。


・・・

今回大画面で観直して驚いたのは、大興奮の後半部分よりも、むしろ前半部分の「予兆」とでも言うべきシーンがテレビで観ている時よりも効果的だったことだ。特にブロディがサメの写真集をパラパラ見ていくモンタージュジョン・ウィリアムズの不穏な音楽と共に今までにない「予兆」を味わえた。ジョン・ウィリアムズの音楽はともすれば後半の大盛り上がりに注目されがちだが、前半部分のこういった「予兆」の部分が実に素晴らしいことが分かる。有名なサメのフレーズも手を変え品を変えここぞというところで顔を出すところが巧い。

・・・


一つ残念なのは、7.1chリミックスのサウンド。以前のDVD化による劣悪な5.1chとは雲泥の差で、オリジナルの要素を的確にサラウンド化していますが、いかんせんクライマックスのオルカ号にサメが乗りあげてからのシークエンスは、DVD化の時のサウンド同様、船の沈む軋みや重要な鐘の音が一部省かれてしまっている。余計なイフェクト音の追加もここではそのままになっている。まさに画竜点睛を欠くとしか言いようがない。ライフルのチェンバーを確認する音は残っているので、一体全体どうしてこうなったのか不思議でならない。今回はオリジナルのモノラル音声が収録されているの問題ないが、改めてオリジナル音声で聴き直すと、明らかにクライマックスのサウンド・デザインは素晴らしいの一言。クリシーが襲われるシーンの鐘の音と呼応する音なんだから演出上外せないだろうに……。勿論前後に聴こえてはいるのだが、途中の音が抜けているのだ。ゴゴゴゴという船の軋む音も!


ただ、何度も書いているようにDVDの時とは違って、オリジナル音声も収録されているのだから、問題は全くない。かえってDTSで収録されたオリジナル音声のクオリティも今までにないものだったので嬉しかったぐらいだ。LDのスペシャルBOXの時に収録されたオリジナル音声は低音が異様に再現されていたが、この時のマスターと同等と思われるド迫力のものだ。やっぱり『ジョーズ』の音声はオリジナルに限る。



特典などの感想も含めてこの続きはまた今度。取り急ぎファーストインプレッションでした。


・・・



ジョーズ 2 [DVD]
ジョーズ 2 [DVD]
posted with amazlet at 12.08.22
ジェネオン・ユニバーサル (2012-08-22)
売り上げランキング: 24627

実は『ジョーズ2』に関しても最近再評価しているので、今度はホームシアターで観直してから感想を書いてみたいです。こちらも合わせてブルーレイが出ないかなあ。ハイビジョン放送がシネスコサイズだったからそれでもいいっちゃいいんですが。