男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

シネスイチ板橋プログラム3『タワーリング・インフェルノ』


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大画面冥利につきるディザスター映画の頂点

ちょっと調べてみると、ゴールデン洋画劇場で二週にわたって放送されたのが1979年の4月となっており、僕が最初にこの映画を観たのはこの放送。で、『ジョーズ』を水曜ロードショーで観たのは1981年9月30日。そうなると映画を観て初めて夢中になったのはこの映画ということになる。ただ、『ジョーズ』を観るまで映画を「怖いもの」として避けつづけてきた記憶があり、そうなるとその「怖い」という記憶を植え付けているのも間違いなくこの映画のような気がする。

ともあれ、「怖い」というよりも「異様に緊張した」という感じかも。

僕はスティーブ・マックイーンクリント・イーストウッドが男優の中ではダントツで大好きなんですが、スティーブ・マックイーンが好きになったのは当然この映画が最初。なので亡くなった時のニュースは子どもながらに強烈に記憶に残っている。まだ映画を全然好きじゃなかった頃にも関わらず。

・・・

さて、今回はシネスイチ板橋本来の目的である「劇場で観たいけど観られないシネスコ映画をハイビジョンで堪能する」に見事に合致する作品だ。

ブルーレイ、国内版はワーナー、アメリカ版はフォックス。これはご存知のようにこの映画、メジャー会社二社が初めて提携した作品だからだ。アメリカ国内の配給はフォックス、アメリカ以外の国はワーナー。そういう意味ではビデオ時代も国内は154分の短縮版だったし、LD時代もフォックスではノートリミングの高画質版が発売されていたりした。DVDになっても商売する気のないワーナーからは最初に出た物がずっと流通されていたけど、フォックスはスペシャルエディション版なんかを出して海外のファンをやきもきさせていた。

大画面の劇場鑑賞型大作映画の復権

60年代末からハリウッドを席巻したニューシネマの波。ベトナム戦争が終わりに近づくにつれ、その泥沼ブリにせめてショービジネスの産業ぐらい世の中の厭なことを忘れさせてくれるような娯楽を観客が求めた……かどうかは知りませんが、オールスターのグランドホテル形式の映画を「大作」として蘇らせる試みがハリウッドで行われる。ユニバーサルの『大空港』がそれ。これが見事に大成功し、各社が「オールスターで大作じゃい!」となるのは何時の時代も同じ事。そこにテレビ界から映画界へ戻ってきたプロデューサー、アーウィン・アレンが娯楽映画の老舗20世紀フォックスで映画化したのが『ポセイドン・アドベンチャー

ポール・ギャリコの原作の持っている妙な黒いテイストはアクをとるように抜かれ、純粋なサバイバル物として再構成されたこの作品。スターリング・シリファントの名脚色と、見事なプロダクション・デザインや実力派揃いのオールスターによって大成功をおさめる。生きるために能動的に行動を起こすことによってのみ人間は生きるに値する的な宗教的なテーマや、一筋縄ではいかない意外なストーリーなどなど、作品としての完成度はピカイチ。しかも興行的に大ヒットを記録したので、アーウィン・アレンはすぐさま次回作にとりかかる。「水が襲ってきたんだから、今度は火だろう!」という安直だがすべての人間のニーズに応えた敏腕ぶりで、フォックスとワーナーが同じようなビル火災の原作を映画化しようとしているのを何と一本にまとめてしまう。

言うのは簡単だが、実際にやるのは人任せなのも敏腕。もちろんお鉢が回ってくるのはポセイドン・アドベンチャーを成功に導いたスターリング・シリファント

メイキングでも語られているように、とにかく筆が早くて一切文句を言わずに要望に的確に応えるという、内実共に「デキル」脚本家だったシリファントは、2つの原作をこれまた「もともとこうだったんじゃないの?」と思えるほど見事に脚色してみせた。僕は原作を両方読んでいるが、どちらも映画には遠く及ばない。明らかに映画のほうが面白いのだからたまげる。

あとはポセイドン・アドベンチャーを上回るようなオールスターキャストが集まれば問題なし。


有名なダブルクレジット

スティーブ・マックイーンポール・ニューマンの共演がどんなに凄いかは当時の人間ではないので想像できないけど、『ヒート』でデ・ニーロとアル・パチーノが共演した時よりも大きな話題だったことは簡単に想像できる。こう考えると今ってひとりで看板背負うような役者さんが少ない分、けっこうイージーに共演したり顔合わせしたりできるから、こういった夢の共演とか、オールスターキャストみたいなお祭り感覚は薄れてきていますよね。

クレジットの段差は人気やギャラに配慮した苦肉の策。


このアオリ構図は大画面でこそ効果がある

オールスターキャストの中でもかなり美味しいキャラを演じているフレッド・アステア。往年のスターの登場に合わせて映画の主役でもあるグラスタワーが登場。


同じくフレッド・アステアジェニファー・ジョーンズとパーティーで話をする一連のカット。間のカットなどは何気ないけどシネスコ構図の美しさを味わえる。

二人が歩いて会話するのを移動で捉え、引いた画でおどける二人をFIXで捉えながら、テーブルにつくと再び移動して二人のツーショットになる。こういった一連のショットを1カットで軽くやるのが往年のハリウッドスタイルを感じさせる。


マックイーン扮する消防隊長オハラハンがダンカン社長の戯言に一切耳を貸さないプロらしい名シーン

「ここは安全だろう?」と懸命に茶化そうとするダンカンに終始真顔で返すオハラハンがカッコイイ。しかも実務的に「私が言うとパニックが起こるから、貴方が冷静に伝えろ」と命令して去っていく。

オハラハン隊長は登場してから退場するまでずっとネクタイとタイピンをつけていたりして、何から何までプロっぽいカッコヨサに満ちている。


最上階の階段出入口が塞がっているので歩いて登る志願者を募ると、全員無言でサッと前に出る名シーン。

この黒人と白人のコンビは消防隊出動シーンでも最初から登場しており、白人はエレベーターでのクリフハンガーアクションで頑張り、黒人は最後まで屋上で消火作業を頑張る。

当たり前のように引き受けたのはいいけど、50階近く階段を登るのにヘトヘトになって愚痴るふたりが描かれるシーンもあって、清涼剤のように笑わせつつ人間味あふれていて素晴らしい。


ポール・ニューマン演じるビルの設計士ロバート。彼がガス爆発によって崩壊した階段を転げ落ちるクリフハンガーアクションは、子どもの僕にアクションの真髄を体験させてくれた。これ以降今でもクリフハンガーアクションは僕の中で聖域といってもいいアクションとなる。中途半端なクリフハンガーアクションは許さない。

もっとも、アクション監督を務めたアーウィン・アレンにそれほどの力量がないので、今観ると結構緊張感のないアクションシークエンスではあるんですけどねw

それでも、崩壊した階段の手すりが蔦のようになってそこをゴロゴロと転げ落ちていくというアイデアは秀逸以外の何物でもない。


もうとても消防隊長の役目とも思えないような命からがらの業務を淡々とこなしてきてぐったり座っていたオハラハンが呼び出される。そこで伝えられるのが有名な消化作戦「屋上の貯水タンク爆破」

「そんな馬鹿な」という呆れたような、それでいて「じゃあ、他にどんな手があるのかわからない」という絶妙な表情をみせるマックイーン。お前がやるしかねえんだと無言の命令を受けて「どうやって下りるんだ?」と返すオハラハン。答えに窮して無言の司令官たちに、脱力したように鼻で笑うマックイーンがとにかく素敵すぎて惚れなおす。


いよいよ爆弾を持って屋上へヘリで向かうオハラハン。彼が結局消火作業がまったく効果なく燃えさかるビルを見下ろす名カット。このカットだけでなく、この映画のミニチュアワークや、プロジェクションによる合成処理、マット・ペインティングなどの特殊効果は、どれもこれもこの時代にしては恐ろしいほど自然に作品に溶け込んでいる。湯水のように予算をつぎ込んでいるにしても、この違和感の無さは驚愕。勿論巨大なビルとはいえ炎や水などの嘘のつけない部分ではミニチュアワークがもろバレな部分も多いのだが、編集やサウンドデザインが驚異的に上手く行っているので溶け込んでいるのだ。ポセイドン・アドベンチャーもそうだったが、アーウィン・アレンによる技術スタッフの統率は見事の一言。

また、ここに至る一連の音楽を丁寧に盛り上げていくジョン・ウィリアムズも素晴らしい。オープニングこそ劇燃えのテーマで煽りたてつつも、劇中ではグっと抑えた劇伴を積み重ねる。そしてクライマックスでの爆破作戦ではキチンとしたスコアリングでシーンへ緊張感を走らせる。ズームレンズの効果的な使い方と相まって爆発カウントダウンの音楽は完璧。



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最近『ポセイドン・アドベンチャー』も観直しているだけに、今作はまるで続編のような企画として考えられるが、一番共通しているのはキャラクターの死。『タワーリング・インフェルノ』では、ポセイドン・アドベンチャーより、とにかく即物的に無残に人が死んでいく。ほぼ100%犬死にであって、そこが子供心にトラウマになっているのかもしれない。特にリチャード・チェンバレン演じるクソ野郎の道連れになって死んでいくロバート・ボーン(カメラがそれをフォローすらしない)や、有名な「子どもは助けて自分は落っこち」て死んでしまうジェニファー・ジョーンズジェニファー・ジョーンズに至ってはあれだけフレッド・アステアとのロマンスを描いておいての死だけに、ショック度は半端ではない。どんなスターでも平等に死の訪れる可能性があるのは『ポセイドン・アドベンチャー』でも同様だったが、それこそディザスターであり、リアリティなのかもしれない。

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今回ホームシアターで観たことで分かったのは、165分という超大作として製作されているこういった映画は、暗闇の大画面がよく似合うということ。まさにホームシアター冥利に尽きる映画と言えるでしょう。



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ちなみにこちらがアメリカ盤