男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『ザ・マペッツ』★★★1/2

「最初からそういえばいいのに」

先に断っておくと、僕は子どもの頃から『セサミストリート』が苦手で、あのマペットたちの感情のこもっていない目に恐怖を感じていました。なので、アレルギーのようにこの年齢までずっとあのキャラクターたちは避けており、そのせいでキャラクターの名前などもまったく知りませんでした。

ところが、アカデミー賞授賞式の歌曲賞受賞時にこの映画の映像が一部流れた時、主人公ウォルターが人間になれたらと夢想する姿を、ジム・パーソンズが演じているのを観たのです。ジム・パーソンズは大好きなシットコムビッグバン★セオリー』の主人公のひとりシェルドンを演じている役者さんで、僕も妻も彼の大ファン。

それ以来『ザ・マペッツ』が公開されたらぜひ行きたいということになったのです。

先に書いたマペットたちに対するアレルギーも、いい機会だから克服しようと思いたち(だって、明らかに本当は面白そうなんですもの)、とりあえず『セサミストリート』のwikipediaを読んで予習をしてから観に行きました。もっとも、実際にはこの映画はジム・ヘンソンが手がけた別のシリーズ『ザ・マペッツ』に属するようで、メインキャストであるカエルのカーミットの名前を覚えたぐらいしか役に立ちませんでした。ははは。

ただ、この映画、シリーズを知り尽くしていれば恐らく100倍は楽しめるでしょうけど、その100分の一でも十二分に楽しめる傑作でした。

あらすじはミュージカル映画では定番の「取り壊される思い出の劇場を救うために昔の仲間達が再度集まってショーを開く」というもの。『ブルース・ブラザーズ』もそうですね。ミュージカルはその性質上ランニングタイムがいくらでも長くなってしまうので、ストーリーはできる限りシンプルにしなければいけません。その点この映画は完璧にストーリー上の贅肉をそぎ落としている。

しかし、面白い贅肉はいやというほどデップリとメタボリックについており、それがどれもこれも大爆笑という素晴らしさ。

具体的に何が面白いかというと、マペットが実際に存在する世界という奇想天外な設定に対して、合理的かつ論理的なエクスキューズを完全に放棄しているところから始まる荒業。開始早々、マペットのウォルターと普通の人間ゲイリーが兄弟である事を、そのまんま説明して始まるあたりからして吹き出す。

「分かってる、そっくりだろう?」

とか言い切って。

人間のゲイリーは瞬く間に成長して中年のおっさんジェイソン・シーゲルに成長。もちろんウォルターはマペットのまま。身長も変わらないの(当たり前だ)柱の傷もまったく更新なし。

「思い通りにならないこともあるよ」

毛ほども似てない


感情の説明をキャラクターが突然「歌って」すませるというミュージカルの大前提も意識的にパロディ化しており、歌が住むとバックダンサーを務めていた町の住人達も「やっと出ていった」といってぶっ倒れる。そういう楽屋落ち的なギャグが全編に展開するので、そういうのがツボな人間としては爆笑の連続。

この映画の素晴らしいところは、ミュージカルで大事な「底抜けな明るさ」を常に失わないくせに、ストーリー上のマペットたちの生活がやたらとリアリティ満点に描かれる部分だろう。なにせいきなりマペット・スタジオは閉鎖されて蜘蛛の巣が張っているし、観光客もユニバーサルスタジオを間違えたアジア人家族と主人公たちだけだったりする。

明らかにご都合主義丸出しのタイミングで登場する悪役(その名もリッチマン! 演じるのはアメリカ一怖い親父クリス・クーパーという神キャスティング)が、何の脈絡もなく取り巻きのマペットたちにスタジオを取り壊して石油を掘り出すぜと宣言(まったく意味が無い!)、もちろんウォルターはたまたまそれを机の下に隠れて聴いてしまう! しかも、その取り巻きの会話が

「1000万ドルがなければこのスタジオは閉鎖だ」「ふふふ。いまのはこの映画で重要なポイントだな」「そろそろ退屈するころだからちょうどいいさ」

などというすさまじさ。

顔面が明らかに世界にそぐわないクリス・クーパー。しかし、彼以外考えられないというパラドキシカルなキャスティング。取り巻き連中の顔も一癖ありすぎ。

この手のギャグがとにかく連発する。

主人公たちは何とかするために、マペッツのりーダーであるカエルのカーミットと合流。カーミットの登場も後光がさしてゴスペルをバックに登場するも、それは聖歌隊の乗ったバスのおかげというブラックさ。あの登場シーンは笑った。

手に持ったバッグですら哀愁がただようカーミット


なんやかんやで昔の仲間を見つけるために奔走するエピソードも、途中で「編集しようぜ」とすっ飛ばし始めるし、「ミス・ピギーはフランスのパリだ」と言ったと思ったら、「マアアップ!」とか叫んで、インディ・ジョーンズのアレで地図を線が動くディゾルブ。ほとんど新春かくし芸のノリなのだが、それでもそれぞれのシーンの完成度が異様に高いので、まったく質が低くならない。

一番大笑いしたのは、場末のバーで食いつないでいるクマのフォジーを訪ねるくだり。いきなり楽屋が外の路地。わははははは。それを見たカーミットが哀れに

「クリスマスカードとちょっと違うね……」

雨が降ってきたら慌ててクッションを中に入れようと焦る。

猛烈などん底感満点のマペットの姿に笑わざるをえない。

ヌイグルミのようなキュートな外見のフォジー。でもやってるのは場末のそっくりさんバンドで屈辱の本人役。

他のマペットたちもそれぞれの生活を送っている描写が続き、企業で成功したやつ、Googleに勤めているやつw などなど。

パリでヴォーグ(Lサイズ専門)の編集者をつとめているミス・ピギーを訪ねるくだりも底が抜けてて、アポイントメントがなければ会えないと分かるや(そこからしておかしい)、悟天とトランクスばりにスーツの中にマペットたちが入り、よたよたと「アポイントメントがあるんですが」と訪ねてくる。

やたらと肉感的で魅力抜群のミス・ピギー。でも豚。


そのままミス・ピギーと会見するのだが、ちょっとしくじって総崩れ。それを見たピギーが

「こんな手に騙されるなんて!!」

無茶苦茶。


<以下ネタバレ>


全体的にそういったギャグに彩られながらも、主人公であるウォルターを軸にしたストーリー部分ではしっかり感動を呼び起こす。人間たちに囲まれてマイノリティーとして生きてきたウォルターと、人間ではあるけれどマペットのウォルターとの共依存に近い関係のゲイリーが、それぞれの立場をしっかり見つめなおすシークエンスは、主題歌賞を受賞した名曲「マン・オア・マペット」をバックにして実に感動的。ちなみにジム・パーソンズはこのシーンでウォルターが夢想する人間の姿を演じる。そのマペット臭さが実にいいキャスティングだ。そして、クライマックスでマペットとしてショーの舞台に立つことに怖気づくウォルターをゲイリーが励ますシーンは号泣必至。ギャグだらけのシーンにみせかけて、実はしっかりと地に足のついたマペットたちの生活ぶりを描写しまっくっている効果がここに結実。もうマペットを現実の存在として観客がすっかり納得している状態で、ウォルターがその「仲間」に迎え入れられるラストは感涙。もちろん最後は大勢で歌って踊る大団円。

この幸福感はかなりのもので、最上のファンタジーに没入することで発生する極めて上質な脳内物質が分泌しまくること請け合い。


・・・

弟のゲイリーを演じて脚本も共同で担当しているジェイソン・シーゲルは近年ハリウッドで注目を集めているようで、最近の映画も評価が高い。この作品の楽曲部分でもかなり協力しているようで彼抜きでは考えられなかったというコメントも多い。

ミュージカルナンバーも傑作揃いだったが、クリストフ・ベックのスコアもクライマックスの感動を大いに盛り上げてくれる。

そして、やはりマペットに完全に命を吹き込んでいる操演者たちの名演技。手を使って生み出される微妙な表情や仕草などはまさに職人芸。あれみているだけでご飯が何杯でもおかわりできる。

クリス・クーパーがラップで歌を披露するシーンも最高。カーミットたちが恩赦を申し出るのをにべもなく断るんですが、控え室から突然ダンサーの女性陣が現れて一緒に踊りだす。何が面白いって、そのあと控え室に引っ込んだダンサー達がしんどそうにしている姿がチラっと見えるんですよね。しかも、せっかく歌って「答えはノーだ」って締めたら、「最初からそういえばいいのに」とボヤかれる始末。あはははは。


激オススメです!!

・・・


というわけですっかりハマッてしまいました。アレルギーなどきっちり克服。

なので、他のマペットシリーズも観てみようと思います。

まずは『めざせブロードウェイ』のビデオを注文しました。これなんでDVD出てないんだろう?

あらすじがぶっ飛んでいるので早く観たい。

カーミットマペットはダンハースト大学4年生。卒業を間近に控え、カーミット達は、キャンパスで、「マンハッタンメロディーズ」というミュージカルをやり、大人気を博す。しかし、観客席の中から、「カーミット、今度はこのミュージカルをブロードウェイで見せてよ」と言う声が聞こえてきたことで、全員が奮起。一致団結し、マンハッタンへ。
最初は自信に満ち溢れていたものの、資金が集まらず、財布が底をついてしまい、全員が別れて、それぞれの街で仕事を見つけ、自分の力で生きていくことを余儀なくされる。リーダー格だったカーミットは、心の中では「諦めまい」と、マンハッタンの中から仕事を見つけることになる。カーミットが仲間達と別れたコーヒーショップ「ピートのランチオネット」にいくが、アルバイトを拒否。しかし、オーナーのピート(ルイス・ゾリッチ)の娘で、ちょうどカーミットと同年代だったジェニー(ジュリアナ・ドナルド)の協力のおかげで働けることになる。

>資金が集まらず、財布が底をついてしまい、全員が別れて、それぞれの街で仕事を見つけ、自分の力で生きていくことを余儀なくされる。

余儀なくされるって……

無茶苦茶面白そうだな。


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