『アンドロメダ病原体』を読みました
ディティールの積み重ね
年始から続くマイクル・クライトンのマイ・ブーム。原点である小説も振り返ってみようと思い、本棚にあるものからやっぱりデビュー作であるこちらをチョイス。
デビュー作と言ってもこの作品はクライトンの名義で出された一作目であり、その前にジョン・ラング名義の作品とジェフリー・ハドソン名義の『緊急の場合は』があります。
あとがき引用されていた本人の談にある「それがいつ起こるかもしれないとするよりも、すでに起こってしまったという設定で書いたほうが、迫真性を増すだろうと考えた」が本作の特徴と素晴らしさを的確に表していると思います。
本人も書いているように「宇宙からきた疫病というアイデアの相当なばかばかしさ」を克服する演出スタイルとして採用したのが、上記の「擬似ドキュメンタリー」=「報告書」もしくは「ルポ」の体裁で書くというアイデアだったわけです。勘違いしてはいけないのは、クライトンはちゃんと「迫真性を増す」ためにこのスタイルを採用しているわけで、その演出がものの見事に「ばかばかしさ」を払拭し、なおかつ迫力満点の「リアリティ」を生み出すことに成功している点です。このクライトン・タッチとでも言うべき演出スタイルは、続く『スフィア』『ジュラシックパーク』などの「ばかばかしいアイデア」(ボクはそうは思いませんけど)を見事に極上のエンターテインメントとして昇華させています。
一方で、アシモフ同様、SF的な題材を扱っていながらも、基本的には古典的なミステリーとして構成されている点もこの小説の面白さの一つではないでしょうか。何度目かの再読ですが、謎の部分はわかっていてもそれが解き明かされていく過程が燃えるのです。そう考えると前半から中盤にかけて徹底されているドキュメンタリータッチは、ある意味レッドヘリングとして機能しているとも言えます。
そのくせクライマックスでは時限サスペンスまで用意しているあたりの、映画的エンターテインメントとしての抜かりなさも実にクライトンらしくて大好きです。
ラストもスパっと終わるしね。
美術関係で古臭さは否めないものの、迫真のドキュメンタリータッチを映画でも継承しているロバート・ワイズの「分かってる」演出が冴える傑作。