男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『コーマ』★★★1/2

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「都市伝説」モノのような皮膚感覚の恐怖映画

思えば年末にTwitter@Soundtrack_Dさんが

眠れず映画をみる。1978年の作品。マイケルダグラスが若い!

という発言があって、「なんでよりにもよって年末に」という特大の疑問符が浮かんだのが最初でした。結果的にたまたま取り出した録画VHSに入っていたという事だったそうですが、もちろん「年末に相応しくない」という事には何ら疑問はありません。まあ、年末って深夜に映画を山ほど放送してたし、そのほとんどは別に年末に相応しいものだったわけではなかったですけどね。ははは。

それをキッカケにしてどういうわけかクライトン・ブームがボクの中で再熱し始めて、先ずは「映画界におけるクライトン」を観直してみようと思ったわけです。

今回遂にその元凶である『コーマ』をボクも観直したわけですが、やっぱり年末に相応しくないしw 年始にもふさわしくありませんでしたw

でも、この映画が傑作だった事が確認できて非常に嬉しい。

子どもの頃、日曜洋画劇場で観たときは「とにかく不気味」な映画という印象で、トラウマになっているぐらいなんですが、観直してもやっぱり相当不気味な映画なのが素晴らしかった。もっとも、このトラウマは日曜洋画劇場独特の「厭な予告編」も一役買っていますけどね


マイクル・クライトンがデビュー作の『ウエストワールド』から4年後に作った二作目。どういう経緯でまた映画監督をやろうと思ったのかは分かりませんが、今回は自分の後輩とも言える医学サスペンスを数多く手がけるロビン・クックの原作を元に自身で脚色をしています。やはり自分の専門分野でもある「医学関係」だけに、今回は客観的な視点も取り入れたかったのでしょうか。それとも少し大人になって、商業的な思惑も関係していたのでしょうか。

ともあれ、原作は未見ですが、間違いなく病院に対する不信感(恐怖感)が倍増することは請け合いの作品であり、都市伝説をモチーフとしているような近代的な恐怖映画の嚆矢として再評価されるべき傑作。

・・・

前作の失敗を反省したのか、今回はスタッフとの関係がうまくいっているのがよく分かる。前作は大作感溢れるシネマスコープを全然使いこなせていなかったのが分かったようで、無難にビスタサイズにしてあり、作品のテイストによく合っている。撮影のヴィクター・J・ケンパーは『ジャグラー/ニューヨーク25時』や『狼たちの午後』でも見せたようなドキュメンタリックなビジュアルを随所に生かしている。

ただ、この作品の中でも特に秀逸な「ジェファーソン研究所」のシークエンスはGerald Hirschfeldという人物が別途クレジットされているので要注意。『ザ・カー』などのカメラをしているようだが、あのシークエンスはこの作品内でも特筆すべきパートである。

昏睡状態に陥った患者を収容しているジェファーソン研究所のシークエンスは、応対に現れる女医の気味悪さや、有名なビジュアルである「ワイヤーでつるされた裸の患者」、クライトンの持ち味である「不気味な施設」として捉えられた無機質な外観などなど、どこをとっても意味不明の気味悪さが漂う傑作だ。ストーリー的にも最もトラウマ的な部分が開示される場面でもあるので、気持ち悪さもただごとではない。

『コーマ』と言えば間違いなくコレ


前半部分で意図的に音楽を排し、ドキュメンタリックな描写を積み重ねている事も実は中盤以降のこういった「恐怖映画」としての部分に観客を引きこむことに成功している。そして、一転「恐怖映画」&「サスペンス映画」として展開し始めると同時に鳴り始めるジェリー・ゴールドスミスの音楽がとにかく傑作。お得意のゴールドスミス節が炸裂する中、随所に顔を出す緊張感溢れる単発のサウンドが絶品。『13日の金曜日』でハリー・マンフレディーニがまんまパクっていることが分かったのは嬉しいやら哀しいやら。まあ、この映画をちゃんと「恐怖映画」として認識していたという点では評価できるかも。それぐらいゴールドスミスのこの作品で聴かせる音楽は実にモダンであり不気味だ。

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『コーマ』に加えて『ウエストワールド』とクライトン原作の『殺しのカルテ』が収録されたサントラ。


また、若き日のマイケル・ダグラスのキャスティングも秀逸で、主人公の恋人でもあるのだが、序盤から生々しい口喧嘩を繰り広げ、休暇のシーンではヘッタクソなイメージシーンの羅列があったりして、一刻たりとも観客に安心感を与えない。特に中盤で殺し屋に襲われた主人公が命からがら家に戻ってきた時のドリーショットで無表情のマイケル・ダグラスに寄るショットは傑作で、観客の誰もが「こいつ仲間だろう?」と疑念を充満させる。このシーンはカットのつなぎかたもただごとではなく、クライトンの非凡さがよく出ている。

とにかくマイケル・ダグラスという「どっちつかずな」キャラをこれだけ効果的に使ったのは評価に値する。

そのおかげで問答無用に緊張感がたかまるラストのサスペンスで、まさかの大逆転をみせてくれる際のカタルシスが凄い。

医学サスペンスとして始まって、中盤から恐怖映画に変貌する今作。その双方の要素が絶頂にからみ合って迎える、終盤の絶体絶命の危機はまさに「絶体絶命」としか形容のしようがない壮絶なもので、すぐ身近にありながら一般人にはまったく得体のしれない「病院」&「医学」を題材にした作品ならではの醍醐味。医学生の経験のあるクライトンならではの生々しすぎる手術室関連の生々しい演出がここでも抜群の効果をあげており、手に汗を握るどころではない。

また、ラストシーンに至る切れ味の良いさばき方も絶品で、「クライトンってこんなに巧かったのか」とちょっとした衝撃を受ける。

ただ一点残念なのはリチャード・ウィドマークのキャスティングだろうか。誰がどう見ても黒幕ヅラの彼では、ミステリーとしての種明かしをされても、「でしょうね」として言いようがない。

若き日のエド・ハリス(もう髪は薄いけど)も病理学者の役で1シーン登場しています。トム・セレックも出てくるけど、あの口ひげはこのためだったのかと思えるような効果的な使い方をされていました。ははは。


・・・

しかし、子どもの頃のトラウマにはなっていますが、観直してみて、ここまで文字通り「生理的」にクる映画だったとは思いませんでしたよ。傑作。

マイケル・ダグラスに演出するクライトン。でかすぎるって。


原作も俄然読みたくなりました。