男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『ウエストワールド』★★★


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マイクル・クライトンのアイデアマンぶりが映画でも爆発した作品

ボクがビデオを親に買ってもらったのは1983年5月。映画を好きになったのは1981年9月30日。この間約15ヶ月の間に観た映画はまさに一期一会の覚悟で観ていた映画です。そんな最初期の映画の中にこの『ウエストワールド』があり、いつどこで観たのかは記憶にないのですが、妹も一緒に観ていたようで、クライマックスでリチャード・ベンジャミン扮する主人公ピーターが、中世エリアの大きな瓶のフタ(マンホールみたいな)を開けて地下の無味乾燥な設備の中へ入っていくシーンを強烈に覚えていると大人になってから聴いたことがあります。

子どもの頃で、しかも映画に対する事前知識は殆ど持ち合わせていないので、この映画のメイン・アイデアである「商業施設のロボットが突如故障して人間に襲いかかる」という物もまったく知らずに観ていました。勿論ユル・ブリンナーが『荒野の七人』のクリスを模したロボットを自分自身で演じているなんて知るわけもありません。したがって『荒野の七人』を初めて観た時の言いようのない恐怖は忘れられません。「これってあのロボットじゃんか!?」

この作品はマイクル・クライトンの映画監督デビュー作であり、オリジナル脚本も自身で書いています。当時既に『アンドロメダ病原体』においてベストセラー作家の仲間入りを果たし、恐らく鳴り物入りで映画界への進出を果たしたのではないでしょうか。前年にやはり自身の小説である『サンディエゴの十二時間』をTVムービーとして映画化しており、準備運動も万端という感じだったのでしょう。


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十二時間という短い時間設定、テロリストの爆弾に施された二重三重のワナなどなど、実にクライトンらしい緊迫感溢れる傑作。


ところが排他的な世界である映画界。小説家で(しかも既に充分大成功している大金持ち)しかも若造である人間(しかも身長が2メートル超え)が脚本も監督も自分でやってしかも予算たっぷりの超大作っていうんですから、あまり協力的ではなかったのでしょう。撮影や編集に関しては幾つか粗いというか雑な部分も見受けられ、全体的に質のいい作品ではありません。

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フレッド・カーリンという人が担当している音楽などは、前半は意図的にパークそのもののBGMのように作っておきながら、ロボットが反逆し始めてからの緊迫感溢れる不気味なリズムと音で構成されており秀逸。

クライトンの演出はアイデア自体は先見性があって唸る部分も多いが、それを成立させているとは言いがたい。周りのスタッフをコントロールしきれていない事が露骨にビジュアルに現れている。

それでも、商業施設を舞台にするという設定、ロボットが故障して一斉に人間に襲いかかる恐ろしい展開、コンピューターによる集中管理が仇になりスタッフたちが全員何も出来ぬまま死んでしまうなどなど、シナリオの独自性は素晴らしい。

特に後の『ターミネーター』にも間違いなく影響を与えているユル・ブリンナー扮するロボットの描写関連は傑作としか言いようがない。顔面のつなぎ目を隠したテープや、外した部分の回路丸出しのロボット感は生理的な嫌悪感を含めて見事。特殊なコンタクトを入れて不気味に光る銀色の瞳も恐怖そのもので、歩き方から何からロボットとしか思えないユル・ブリンナーの怪演と共に明らかにエポックと言える造形だ。
クライマックスで何度も蘇っては主人公の前に立ちはだかる畳み掛けの「しつこさ」も、近代娯楽映画の萌芽を見る思いだ。

また、終盤の地下施設内でみせる「不気味な空間」における意味不明の描写力は、続けて観た次回作の『コーマ』でも更に磨きがかかっており、小説でも彼の最もユニークな部分である「技術に対する警鐘」と無関係ではないだろう。それぐらい無味乾燥な研究所的な空間に対して先天的な嫌悪感でも持っているかのような切り取り方である。

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傑作とは言いがたい作品なのですが、近代娯楽映画を語る上では避けては通れない作品であることは明白で、小説界でも同様のポジションにいるクライトンならではの映画と言えるでしょう。