男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『ICO』『ワンダと巨像』のデザイナー上田文人氏のインタビューが必読

http://www.4gamer.net/games/120/G012071/20111020037/

上田氏:
 「娯楽」が楽しすぎたので,例えば仕事を休みましたとか,そういうものではないですよね。少なくとも,今僕がやりたいものとは違います。現実世界で,みんな働いたり勉強したりしなくちゃいけないわけじゃないですか。娯楽というものは,それに対して,少なからずプラスになるものじゃないといけないと思うんですよ。

4Gamer
 もうちょっと具現化できるイメージはありますか。

上田氏:
 プラスになるといっても,英単語が覚えられるとかそういう意味ではありません。例えば……そうですね,例えば今回PS3版の「ICO」「ワンダ」の発売がありましたけど「そういえば今週はICOとワンダが出るからがんばろう」とか思ってもらえるのもそうですし,ゲームをプレイして,終わって,ちょっと気持ちが前向きになったとか,そういうものでもいいと思います。
 明日からまた真面目に学校行こうと思ってもらえるとか,そういうものじゃないと――最低限そういうものじゃないといけないと思うんですよ。

まさに僕が『娯楽』に求めているものがコレ。「マラソン理論」*1に対しての解答がこれだなあ。

これが無いものは「貴重な時間を浪費」してしまう。時間つぶしは『娯楽』では決して無い。

4Gamer
 上田さんのおっしゃる「リアリティ」についてキチンとお聞きするべきかとは思いますが,たぶんそういう理由だと思います。もしかしたら3Dアクションという構図が単に理解しやすかっただけかもしれませんが。
 単にリアリティっていう言葉だけ聞くと,なんだか写実的な何かを想像しちゃいますけど,そういう意味じゃないですよね,もちろん。

上田氏:
 ええ。結局,創作物っていうのは錯覚ですよね。いかに錯覚させるかということです。ですから,錯覚のさせ方が上手に出来たっていうことですかね。
 例えばホラー映画を観に行っても,それなりの年齢になれば「一切自分に危害が加えられない」ことくらい分かってるわけですよね。画面から何かが飛び出してくるわけはないですし。それでもなお「怖い」と思うのは,それは錯覚ですよね。

後半に出てくる「お台場のガンダム」に関する興味深い指摘にも通じるんだけど、「錯覚」もなかなか絶妙な表現。

4Gamer
 なるほど。話をちょっと戻すと,いつだったかお話しした,「実際にペットを飼ってる人が見ても,こうじゃないとしか思えない」状態で,錯覚が起こらないんですよ。

上田氏:
 それは演出の方向性の違いじゃないですかね。
 前回も言いましたけど,なぜトリコがああいう造形なのかというと,実際に飼っている人たちの厳しい目を逸らすために色んな要素を混ぜて,うまくごまかしているからです。うまくごまかすことも演出ですから,それによってリアルに感じてもらえるわけです。なんでトリコは渋谷が舞台じゃないのかといったら,実際の渋谷を調べてアラ探しをすることに終始されるよりは,ファンタジーなんだけどさもありそうな世界のほうが錯覚させることが出来るよね,ということなんです。

「ごまかす」というと良くないイメージを想起するけど、前述の「錯覚」と同様、『演出という作業』の最重要項目と言える。「ディティールに神が宿る」という言葉があるように、徹底的にディティールを細密に描写することは、「大きな嘘をごまかす」作業なわけで、逆に言うと「ごまかしている」と感じてしまうのは、それが巧くいっていないんでしょうね。


上田氏:
 もしかしたら僕,以前どこかで言ったかもしれませんけど,お台場にガンダムありましたよね。

4Gamer
 ありましたね。写真で見たことしかないですけど,いかにランドマークとはいえただのガンダム立ちで,なんかちょっともったいないと思ってました。

上田氏:
 ですよね。例えば僕があの展示をまかされたら,たぶん違う方法で展示します。
 例えば……そうですねえ,ひざまずいて給油してるシーンの展示とか,コンテナに乗せられてるシーンを展示するほうが,もっと「本物」っぽいですよね。

4Gamer
 戦車のプラモをジオラマで作るような感じですね。

上田氏:
 そこが「演出の方向性の差」だと思うんです。どっちがいいか悪いか,っていう話じゃないですよ。
 でもリアルにガンダムを感じたいのであれば,片腕が取れててクレーンで吊されたりしてるくらいのほうがいいかな,とは思います。

これは目からウロコが落ちました。確かに絶対その方が面白いよなあ。『ジオラマ』もさっき書いた「ごまかし」や「錯覚」に通ずる、「演出技法」の勉強になるよね。


*1:長い映画とかを観終わったり長い小説を読んだ時に生じる「達成感」を「面白さ」と勘違いしてしまう事。