『猿の惑星:創世記』★★★1/2
マーク・ゴールドブラッドとコンラッド・バフ
前評判がやたらと良くてアメリカでもまさかの大ヒットをしたもんですから、事前の情報を極力絶って観てきました。体調ちょっと悪かったにも関わらず食い入るように全編観てしまう力作でした。
監督のルパート・ワイアットという人は前作がサンダンスで絶賛されたとかで、アメリカ映画によくある「突然の大作への大抜擢」なんでしょうが、「並木道で次々と舞い落ちる枯葉」「シーザーが藁を指でクルクル回している」「さりげなくすごいワンカット処理」などなど随所に非凡な演出力をみせつけてくれました。
脚本のリック・ジャッファとアマンダ・シルヴァーは『レリック』しか観ていませんが、明らかに突然変異のような傑作をモノにしていますね。まあ、ハリウッドはプロデューサーに潰されなければ傑作だったシナリオは山ほどあるんでしょうけど。
元の『猿の惑星』シリーズにも所々でファン・サービスしつつ、単体としてキッチリと仕上げているのは素晴らしい。奴隷制度と体制からの解放は観ていて握りこぶしモノ。画面上では「首輪」=「ペット」とも受け取れるようになっていますが、あそこはやはり「奴隷」からの脱却の方が大きいでしょうね。メイン・キャラクターが猿なだけに、セリフに頼らないシナリオが実に上手く、しかもその「セリフ」の使い方も非常に巧い(後述)。
そして、この作品の一番の功績は何と言っても編集を担当しているマーク・ゴールドブラッドとコンラッド・バフの二人でしょう。80年代から映画に夢中になり、キャメロン映画の洗礼を浴びた人間には決して忘れることのできない名前。
この映画の編集のセンスとパワーは圧巻。久々に映画を観ていて血がたぎりました。最近のダラダラした映画と比べるまでもなく、観客を引きこませて離さない。
勿論アンディ・サーキスの名演技もこの作品の完成度を底上げしています。猿の真似が上手いとかのレベルでは無いことは『キング・コング』で証明済みですが、根本的な芝居自体のクオリティが高い。共演のジェームズ・フランコがなんにもしていないB顔で終始いるだけなのに比べて、なんと魅力的なことでしょう。
(以下ネタバレ)
作中遂にシーザーが振り絞るように放つ「NOOOO」のセリフは、シナリオの巧さと相俟って場内が文字通り震撼するのが肌身で分かりました。
オリジナルを観ている人間には「Get your stinking paws off me, you damned dirty ape」のセリフもあるので実に上手い。
クライマックスの金門橋での戦いも、力押しの適当なアクションではなく、猿たちの特性をフルに生かした戦術をみせてくれたのがまた燃える。橋の下に次々と飛び移っていくシーンが激燃え。そして、シーザーをかばいつつ、ヘリへの決死のアタックをかますゴリラも熱い。シーザーとの絆をドラマ部分で見せてくれているからこそ本当に燃える。
そういえば、見終わってからみたチラシが「泣く泣く号泣」のオンパレードで呆れ返りました。この映画は完璧に燃え映画だろう。燃えるからこそ泣けるんだ。
久々に「燃え映画」の傑作を観られて幸せです。
『新猿の惑星』が大好きな人間としては一作目だけではなくシリーズを通して観て欲しいですね。
マーク・ゴールドブラッドのテンションの高い編集が堪能できる三作。