男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『激突!』


デニス・ウィーバー
本当の激突
作品は5★
情けない声が最高!
アクション:4075位 (2010.08.30)
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身震いするほど凄い

個人的に今回の『午前十時の映画祭』で一番楽しみにしていたのが、スピルバーグ監督の『激突!』でした。

もともとテレビ・ムービーとして製作された作品ですから、テレビの放送やビデオグラムなどを家庭のモニターで観ることに特に問題がないのですが、もともと35ミリフォーマットで撮影されていますし、スピルバーグの「映画野郎」としてのパワーが漲っているのをぜひスクリーンで確認したかったからです。

今回のフィルムは東宝東和のロゴから始まり(ロゴ自体は上下マスクのビスタサイズ)、アスペクトはスタンダード。冒頭のクレジット・パートにも上下左右の額縁はありません(DVDはこの部分で上下左右額縁がある)。音声は劇場の表記ではモノラル。ミックスはDVDと同じに聴こえましたが5.1chということはなく、前面から押し出されてくるモノラル特有の迫力がありました。眠っているデビッドの背後から列車が近づいてくるカットでは、一瞬左端に写り込むだけですので、DVDなどと同じマスターに思えます。*1ただ、傷が多いのが気になりましたから、あれがオリジナルのものなのか今回の上映によってついているのか気になるところ。日本やヨーロッパで上映がされた際には上下にマスクがされ、デビッドのモノローグが外されていたということなので、これではないはずです。(まあ、ニュープリントって言っているわけですし)

というわけで、ちゃんとスタンダードでの上映で安心し、あとはじっくりと鑑賞。


この映画については改めてまるまる解析のページを作ってみたいほど、マシスンの脚本やスピルバーグの演出の凄さが充満しているわけですけど、スクリーンで観ることでは分かったのは、「スピルバーグは恐ろしいぐらい”映画”を作ろうとしていた」って事です。

DVDの特典映像でも本人が語っていますが、製作進行の人間に「ちゃんと映画にしろよ」と発破をかけられたそうで、異様なぐらいその言葉を忠実に守っているわけですね。

もともとテレビの監督になる気はさらさらなく、「食べるために仕方なく」テレビの仕事を引き受けたと本人も語っていますし、クローズ・アップばっかりだったテレビの世界で意図的に「映画」的なワイドの構図を多用したとも言ってますから、正真正銘の「映画野郎」なんでしょうね。

だから、本来テレビ・ムービーとして製作されている本作ですが、間違いなくスクリーンで観ることを前提にしていることが今回よっくわかりました。


多くを書くと長くなりますが、まず一番効果的だったのは、「背後」の演出。

ジョーズ』が意図的に「足」ばっかり写す事で、鮫が足から食べる緊張感を観客の心理にずっと刻みつづけて、常に不安にさせているように、『激突!』では”運転する状況”から「背後」に迫ってくるトラックを常に観客の心理に刻みつづける演出が特徴的です。

追い越しをしてから常に「背後」に意識がいくように巧妙に構図が作られているのが、スクリーンで観ると恐ろしく効果をあげているのが確認できました。

また、最後の『スタンダード』アスペクトとしても重要で、スピルバーグがスタンダードの構図も巧みに使いこなしているのもスクリーンで観るとよく分かります。トラックの屋根よりもさらに上部に備え付けた固定カメラで「屋根越しのデビッドの車」を追うカットなども、上下の広いスペースが絶妙にスピード感と恐怖感を生み出していました。

大好きなレストランのシークエンスでも、スタンダードの画面の中を縦構図でギュウギュウに配置されたカウンターの客を望遠でとらえたショットも絶品。ピントがそれぞれ合っていき、デビッドの疑心暗鬼と観客へのミスリードを巧みに演出しているのがスクリーンだとさらに効果倍増。

そして、何といってもクライマックスのカーチェイスのシークエンス。ラジエターホースがイカれてからのサスペンスは、今までの疾走感から一転してのジワジワ移動と、ワイドショットの切り替えの凄さが、スクリーンで観ると恐ろしいほど効果をあげていて、「これは凄い」と衝撃でした。


『ゾンビ』のリバイバルの時も思ったのですが、シネスコ大好き人間でも、「スタンダード」の映画をスクリーンで観るのはいいなあと。


まだまだ年内に各地で上映は続いていきますし、ぜひともスクリーンで観ることをおすすめします。



*1:テレビ放送版ではかなりハッキリと迫ってくる列車が確認できる。