『涼宮ハルヒの消失』オリジナル・サウンド・トラック
極めて正統派のサウンド・トラック
テレビシリーズと同じ神前暁氏が担当しており、テレビシリーズでお馴染みのフレーズを使いつつも、全体的には『消失』全体を貫く「正統派」のスタイルを強固に支える「まっとうなサウンドトラック」に仕上がっています。
CDの作りも劇中使用順で構成されており、主題歌の『冒険でしょでしょ?』は未収録。
前半部分こそ陽気なテレビっぽさの残る雰囲気ですが、朝倉が登場する場面での緊迫感溢れる場面から、孤独死寸前のキョンの内面を表すように静かで暗い音楽が支配する。
しかし、ハルヒの存在を知ってからの躍動する晴れやかなメロディから、いよいよオーケストラが全開になって音楽を大いに盛り上げる。
そして、遂に終盤の切ないシークエンスにさしかかると、サティの『ジムノペディ第二番』の哀しいアレンジ(このオーケストレーションは泣ける)を経て、涙腺決壊の感動的なメロディが続く。
テレビシリーズにも『ライブアライブ』『サムデイインザレイン』などでハルヒの心情を表して美しいメロディがピアノで奏でられていたので、神前氏にこういうメロディメーカーの才能があるのは分かっていたのですが、やはり『消失』と言う事もあってとにかく『哀しい』メロディが爆発しています。
ここだけを聴かされて『ハルヒ』のサントラだと思う人はまずいないでしょう。
本編同様サントラも傑作でした!
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よく考えたらこのアニメって、一人の高校生男子が右往左往して、プロット上はSF的な展開があるにせよ、極めて地味なビジュアルが徹底して続く構成ですよね。
高畑勲監督が「実写でやってもいいような題材をわざわざアニメでやる理由はなんですか?」と訊かれて、「アニメで表現すると日常の何でもない部分が印象的に描写できるからです」(正確ではないですが)と言っていたのを思い出します。
『消失』はアニメでないとできない映像表現が、全くと言っていいほど無い作品ですが、逆にそのせいでどの場面どの場面も印象深く脳裏に残ります。日本のアニメーションに脈々と流れる文脈の中にガッチリ位置する正統派の傑作だと思います。