バーナード・ハーマンの『サイコ』を聴きました。

一時は在庫切れになっていたバーナード・ハーマンのド傑作サントラ『サイコ』が新たに再発売され、本日待望の到着！

一時期はオリジナルのマスターがなかったとかなんとかで、新たに再録音されていたバージョンがサントラとして普及していたもんですが、ちゃんとオリジナルのマスターもみつかったようで、そちらのCDは（正式じゃなかったみたいですけど）よく聴いていました。友人の持っていたものだったのですが、車を運転している時に聴いていると気が狂いそうになるという理由で売却してましたｗ

バーナード・ハーマンの作った音楽は、弦楽器のみで構成され、ほぼ二つぐらいのフレーズと、あの有名な「金切り音」とでもいうべき殺人シーンの音楽の繰り返しです。確かに今回レコードで聴いていても何度も何度も繰り返されます。特にA面は前半の主人公マリオンの心理描写と密接に絡み合っているので、♪ジャンジャン！ジャジャン！！　の繰り返しです。　とはいえ、静かに不気味な旋律を盛り上げていく曲もあり、このフレーズはB面の屋敷の探索での緊張感と恐怖をじわじわ盛り上げていく抜群の効果をあげています。

そんなこんなで不吉な予兆を滾らせたままB面へ。B面はいきなり例の映画史に残るシャワーシーンから幕を開けます。

散々同じフレーズの♪ジャンジャン！ジャジャン！！　で観客の耳を慣れさせてきたところへ、突然炸裂する超高音の♪キン！キン！キン！キンの連続音の効果は強烈きわまりなくて、音楽だけ聴いていても効果は絶大。

『ジョーズ』もそうですけど、この『サイコ』も前半と後半でまったく別の展開になるパターンの映画ですが、この映画の最も凄まじいのは、作劇上重要なポイントになる「布石」をまったく打っていないところでしょうね。「雨で前が見にくかったから道を間違えた」という、あまりにもありふれていて、それが故にどんな人間にも起こりうる交通事故のような恐怖への導入。マリオンが会社の金を横領して恋人のいる町へ向かうというプロットが、すべてミスディレクションにすぎないと判明する（とは言え後半のストーリーもこの横領が大きく影響を及ぼしているので、ただのミスディレクションとも言えないけど）。

小学六年生で、始めて観たヒッチコックの映画ですけど、なにがすごいってこの前半がとにかく緊張感満点に描かれている効果が絶大だったことです。マリオンの妄想のヴォイス・オーバーや先のメインテーマのリフレイン、グラサンの警官や、中古車屋の店員のしつこい質問などなど、完璧にマリオンに感情移入させまくるんですね。それもこれも、「主人公（だと思っている人物）がまさか本編の途中で死ぬ」という「ショック」のためだけに費やされている。

その「ショック」効果をやはり100%理解して音楽を作っているハーマンのこのサントラはやはり映画音楽史に残る傑作ですね。

マリオンが死んでからはあのメインテーマが流れないという潔さも、この映画の構成を明確にしていて美しいんですよねえ。先に少し書きましたけど、後半のヒロインとなるベラ・マイルズが屋敷を探索するシーンの緊迫感は強烈で、子供の頃は震えるほど緊張してましたね。しかも、ネタバレなんてまったく食らっていない純粋な脳で観ているので、クライマックスのノーマ・ベイツの出現あたりは、もうどうかしてしまいそうなほど怖かったですよ。このシーンの音楽で、地下室の空気感がやたらと感じられるなあと思ってたんですが、なんとこのレコードで聴くと音が鮮明な分収録しているスタジオの残響などがその効果を出していることが分かりました。これは当然計算ではないと思うんですが、明らかに何か違う音場を作り出しているんですよね。そこへ例の♪キン！キン！キン！キン！！ですからねえ……

骸骨のディゾルブ（ボクが観た最初のテレビ放送版はこのディゾルブが無いバージョン。逆に今思えばこのバージョンを観ることはなかなか出来ないんじゃないでしょうか？）から音楽が入ってそのままエンドクレジットに突入する素晴らしいエンディングまで含めて、凶悪なほどのよく出来た映画です。

今回のレコードはオリジナルのマスターを使用している盤なので当然のようにモノラル。そして、スピーカーの中央から響いてくる音声はかなり明瞭で（ヒスノイズまで鮮明ｗ）演奏中の演者の身動ぎする音も聴こえてきます。