男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

プログラム35『新幹線大爆破』

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本当に脈絡もなく『新幹線大爆破』が観たくなったので、WOWOWで放送されたHD版を観ることに。「こんなに録画していつ観るんだろう?」と思いつつセコセコと録画してはBDにやいていたのはまさにこういう時のためだったと言えるでしょう。特にBlu-ray化されていない作品になるとHD放送は貴重。ホームシアターになるとさらにHD素材は貴重になりますからね。

てなわけで『新幹線大爆破

これは子供の頃に観た数少ない「超面白かった邦画」の一本です。ビデオにも録画していなかったので、小学生5年生ぐらいの時に観たと思います。ちなみに『東京湾炎上』は録画してあったのでそれよりも前の放送だということになりますか。

ちょっと信じられないぐらいのインパクトでした。そして、それは間違いなく「80キロを超えるとスイッチが入って、80キロ以下になると爆発する爆弾」が新幹線にしかけられるというアイデアに尽きると思うのです。ぶっちゃけ大人になってから観直した時は、ズームの多用やダサい音楽、犯人側のドラマや統一感のないナレーションによる説明などなど、自分の趣味にあわない演出が多くて幻滅したものでした。ところがグルっと回って今回改めて観直すと、そういった演出の「粗さ」や「雑さ」が特に気になることもなく、逆に1975年という時代の息吹を感じさせるのに効果的なのかなとも思います。

そして、子供の頃は当然「止められない弾丸特急」「終着がある=タイムリミット」などの極めつけのサスペンス要素に夢中になっていたものですが、今観ると海外ではカットされてしまう高倉健演じる犯人グループのドラマがなかなかイイ事に気付かされます。いわゆるパニック映画の論法に則るように、様々なドラマとサスペンスがタイムリミットに向かって交錯していく構造こそがこの作品の生命であり狙いだったのだと分かります。逆に言えば上記のサスペンス要素が若干弱まっているのも事実なのですが、それはそれでやはりこの作品の独自性になっていると思います。なので、今回は高倉健さんの犯人グループが警察から逃げまわり懸命に身代金を奪い、仲間を失いながらも何とか国外逃亡を図ろうとするピカレスクロマンとしての側面も大変楽しめました。

とは言っても、やはり子供時代にも燃えまくったのは上記のサスペンスです。序盤に訪れる最初の危機「前方に故障車が発生したので、上り線に移って回避する」作戦。ここで、ATCという新幹線に搭載された制御装置がサスペンスを生み出します。

「落ち着くんだ青木くん」で関根さんにもモノマネされる宇津井健演じる倉持運転指令室長。

子供の頃から今まで、何度観直してもこの宇津井健には最高に燃えさせられます。ストップウォッチを常に持ち歩き、冷静に物事に対処しながらも、乗客の安全を第一に考えながら時には警察に対して声を荒げるなどの感情の強さも見せる。そして、千葉真一演じる新幹線運転士の青木に対しては常に冷静沈着に指示を与え、狼狽する青木に対しては時に強い口調で命令を下す。このプロフェッショナルぶりがとにかくかっこ良すぎるんですよ。

警察のミスに業を煮やして乗り込んでくる宇津井健が、乗客の命を第一に優先して行動してくれと訴える名シーン。

ここでは若い刑事が観客が思いつくであろう対応策を黒板に書いて説明し、それを怒りをぐっと抑えた芝居で論破していく宇津井健が最高。


この映画が面白いのは、終盤に「不慮の火事」によって状況が絶体絶命に陥ること。

犯人側との攻防も終わり、爆弾解除の方法が記された図面が、受け渡し先の喫茶店ごと火事で消失してしまう。まさかの展開によって、いよいよ純粋なパニックサスペンスとして映画の純度が高まる。

爆弾映画としてのポイントにギュッとフォーカスされる興奮はなかなか素晴らしく、高速度撮影されたフィルムから車体下部に取り付けられた爆弾の位置などを解明するが、そこでコードをつかむのに失敗→「まだ手はある」の波状攻撃は絶品。

せっかくのタイムリミット=終着地点というギミックを生かしきれていないのは惜しいところなのですが、それでもキチンと爆弾サスペンスを二重三重に盛り上げるのは素晴らしい。挙句に最後の最後に「実はまだ爆弾らしきものが」というあたりを、ドラマに連携していくのも非常に独特。


乗客の命が100%保証されていないのに停車の指示を出すことを決断する宇津井健の芝居が激アツ。これぞ漢の顔。


ハリウッドのようなスカッと爽やかなエンディングにはならず、犯人にも国鉄側にも少し苦い後味の残る余韻は、大人になるとなかなか味わい深いものがあります。


この映画はフランスでカットされたバージョンが大ヒットし、爆弾サスペンスに絞った構成として評価されているのですが、やはり冗長な部分があるとはいえ高倉健の演じる犯人グループのドラマも捨てがたい魅力があり、そういった多面的な描き方が濃厚な一日を結果的に体験できるというオリジナルがやはり完成形だと思います。


しっかし、宇津井健の芝居は素晴らしすぎる。完全に主人公だもんな。


ここでも特別出演とはいえガッチリと「存在そのものが説得力」を発揮しまくる丹波哲郎


シネスコ映画はやはり大画面で観ると迫力が段違い。当時の東京の風景なども空気がグワっと押し寄せてくるように感じられます。