男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

久しぶりに中学生に戻れる傑作『トータル・リコール』★★★1/2

これぞ中学生映画だ!

正直レン・ワイズマン監督は『ダイ・ハード4』の印象が悪すぎて、今回もスルーしようと思っていたのですが、Twitterでの評価が良かったので遅ればせながら観てきました。これが大正解! オリジナルの『トータル・リコール』でも大好きだった冒険ロマンの要素が、より濃厚になっていたのが何よりも嬉しい。バーホーヴェン監督のグロテスクなブラックジョークなテイストも捨てがたいのですが、こちらは脚本のカート・ウィマーとワイズマンの持ち味が見事に融合された独自の面白さが堪能できます。

アベンジャーズ』が全力で小学生に戻れる映画だとしたら、『トータル・リコール』はまさに中学生に戻れる映画です。

トータル・リコール』のプロットの面白さは単純で、平凡な暮らしに飽き飽きしている主人公(つまり観客自身)が、じゃあせめてお金出して束の間の疑似体験でウサを晴らそう(つまり映画を観に行く行為)としたら、本当にそんな事態に巻き込まれちまった! しかも、本当の自分は凄腕のスパイだった!!!(観客の願望充足)

このリコール社のヴァーチャル・リアリティマシーンが映画や小説や漫画の進化した姿であることは明白で、そういった現実逃避のシステムがきっかけになって本当の大冒険に巻き込まれてしまうっていうのは、大なり小なり中学生(精神的含む)が一番望んでいる物語でしょう。そういう意味ではオリジナルのアーノルド・シュワルツェネッガーは完全にミスキャストで、彼自身が非現実な肉体の持ち主なんだから感情移入のしようがない。そこへいくと今回のコリン・ファレルの現実感溢れるキャスティングが素晴らしい。太い垂れ下がった眉毛が天然でハラハラさせてくれる。

加えて中学生の喜ぶSFガジェットが全編に満載されていて、コレを観ているだけで大変楽しい気分にさせてくれる。

冒頭で説明される世界設定が非常にわかりやすい上にSFチックで胸がときめく。科学戦争によってイギリスを中心とした富裕層の支配する世界と、地球の反対側であるオーストラリアだけが地球にこされた生存可能な地域。オーストラリアは労働階級の世界であり、イギリスの圧政に苦しめられているらしい。まあ、今流行の格差社会をモチーフにしているようですが、特にそれはどうでもいい。素晴らしいのはその二つの世界をつなぐ「フォール」という移動装置。なんと地球を一直線に貫いて建造されているらしい超巨大なエレベーター。冒頭での説明だと海底トンネルみたいなのかと思っていたら、なんと超巨大なシリンダーが地球の核を突き抜けていくぶっ飛んだ設定。しかも、ビジュアルでちゃんと燃えさかる核を通り抜けていくのだから拍手喝采。ここで「重力が上下入れ替わる」設定があって、これがクライマックスで重要な仕掛けになります。

こういった具合に、中学生が思いつくようなアイデアを大金をかけて実際のビジュアルにされちゃうと、何とも嬉しい気分になってしまうものです。

感心したのは序盤のオーストラリアの描写。完全にブレードランナー以降の「酸性雨が振り続けるアジア系の文化が侵攻した鬱陶しい世界」の生活感が結構生々しいんですね。こんなところで生活したくないなと思いつつ、どこか懐かしく感じてしまう。後半のイギリスの絵に描いたような「未来世界」の描写との落差が実に面白い。

コンピューターゲームでは常套手段となっている、舞台の設定ががらりと変わるアプローチも実に中学生欲を満たしてくれますし、この映画はさらに「第三の世界」にまで舞台が広がる贅沢さ。あのあたりは初期ドラクエやFFをやっていた時の「そこにも行けるんだ!」という単純な喜びを満たしてくれるものでした。そして、冒険ロマンスだから、主人公は元いた世界に戻ってくる。


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矢継ぎ早に展開するアクションも、基本的にチェイスばかりなのにも関わらず、どれにも変化が施されていて見所満載。狭い路地を足で逃げまわる序盤、空飛ぶ車でハイスピードに繰り広げられるカーチェイス、三次元的なエレベーターを使ったアクション、などなどどれも分かりやすく面白い。レン・ワイズマンがこんなにうまいとは思っていなかったので嬉しい驚きです。


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そして、この作品で最も輝いていたのはケイト・ベッキンセイルでしょう。コリン・ファレルの妻→実はこっちも凄腕の諜報員! オリジナルではシャロン・ストーンが名を上げた役どころですが、オリジナルとは違ってこちらではどちらかというとマイケル・アイアンサイドの役どころとミックスされている。これが実に面白い。「あんたなんか仕事の上で奥さんしてただけなんだからね」とばかりに鬼のように執拗にコリン・ファレルを追ってくる様は圧巻。未練タラタラだけど殺されてはたまらんという生存本能で逆襲するコリン・ファレルがまた面白くて、自分は夢の世界で(実際には脳に残った過去の記憶)他の美女とイチャイチャしているのを黙っていたりするあたりが実に生々しい。ははは。
この三角関係の修羅場をド派手なアクションにしただけとも取れるケイト・ベッキンセイル絡みのアクションは、観ているだけでニヤニヤしてきてしまう。彼女が出てくるだけで「お出ましだ!」と喝采をあげてしまうほど。あれは近年稀なグッドジョブではないでしょうか。レン・ワイズマンケイト・ベッキンセイルは夫婦ですから、これは相当な夫婦愛のなせる技なのでしょうかね。憎まれ役である鬼嫁を嬉々として演じているケイト・ベッキンセイルの肝っ玉を感じさせてくれます。

対する意中の女性を演じるジェニファー・ビールも実に説得力のある芝居をしていて、中盤の「これは妄想なんだから早く目をさますんだ」という説得シーンでもしっかりと納得のできる涙を見せてくれる。
この一連の説得シーンは本当に素晴らしくて、しっかりと緊迫するシーンに仕上がっている。
それだけに、いよいよ猿芝居がバレた時のケイト・ベッキンセイルがすぐさま服を脱ぎ捨てて殺し屋モードに切り替わるのが最高に可笑しい。


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この手のSFのお約束になってきている「胡蝶の夢」的なアプローチが極力少なくなっているのも好みな点です。オリジナルの『トータル・リコール』も最後のホワイトアウトによって、映画そのものが実際には主人公の観ていた夢だったのかもしれないという思わせぶりなものになっていました。押井守監督の映画なんかもだいたいそんな作りになっていますけど、正直その手のアプローチには食傷気味。ゾンビ物の内ゲバマイケル・ベイの爆破とおんなじなので。


100点満点の傑作かと言われると答えはノーですが、近年稀なぐらいスカっと突き抜けたSFアクションの快作としては満点なんじゃないでしょうか。

オススメです。



ダン・オバノンとロナルド・シャセットのSFマインド溢れるシナリオが堪能できるオリジナル。ロブ・ボッティンVFXも最高。