男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『ダークナイト・ライジング』★★★★レビュー1

ノーランの決断

ユナイテッドシネマとしまえんIMAXで『ダークナイトライジング』の先行レイトショーを観てきました。

長くなりそうなのでレビューその1ということで、とりあえず思ったことをつらつらと。

クリストファー・ノーランが手がけるバットマン・シリーズの完結編である今回の作品ですが、前作の『ダークナイト』が映画史に残るような傑作になってしまった結果、この作品は完全に前作『ダークナイト』の呪縛にとらわれてしまった事は間違いないでしょう。つまり、この映画を観に来る観客はほぼ間違いなく『ダークナイト』を観て、『ダークナイト』と比較する気持ちで観ていると言っていい。

かつて同じ監督(脚本も)による三部作で成功したものははっきりいって『ロード・オブ・ザ・リング』ぐらいです。しかし、『ロード・オブ・ザ・リング』は三部作といっても究極的には一本の大長編と言えますから、比較するサンプルとしては野暮です。三部作総て傑作である『トイ・ストーリー』でも三作目では監督や脚本に別のメンバーが参加していますし、ピクサー作品はおおむねクレジット抜きにして大人数のチームで練り上げるスタイルですから、これもちょっと違う。

しかも、困ったことに、ノーラン三部作の一作目『ビギンズ』は、特に傑作ではないw

ということは、(僕も含めて)『ダークナイト』がノーランのまぐれ当たりだったのかどうかを確かめるといういやらしい視線でこの作品に対峙しているわけです。

そこで、重要なポイントとなるのが、キャスティングが発表された段階でした。なんとアン・ハサウェイがキャット・ウーマンを演じるというのです。僕の中でその時漠然とした考えが浮かびました。

「これは、イケるかも」

なぜ、そう思ったのか。それは僕がこの映画を強烈に大好きになった理由に直結するので説明します。

『ビギンズ』で中途半端なリアリティをアメコミヒーロー物に持ち込もうとして(個人的な考えとしては)失敗したノーランですが、この『ライジング』を観ると、結論としてはやぱり『ビギンズ』でやろうとしたことが目標だったのではないかと思えるのです。
そして、『ダークナイト』では『ビギンズ』での中途半端な結果に終わったリアリティのテイストをもっと押し進めるという舵を切る事しかノーランに選択肢は残っていなかったと思うのです。恐らくあの段階で今回のような作品を作ろうと思っても、『ビギンズ』の失敗を繰り返させてはもらえなかったでしょう。なので、思い切ってああいう作品に仕上げたのだと思えるのです。そして、皮肉なことにクリエイターというのは雁字搦めの手かせ足かせがあったほうが火事場の底力を発揮するのです。

勿論ヒース・レジャーの存在が大きいことは当然のこととして、ノーラン(兄弟)の底力に映画の神様が味方をしてまんまと『ダークナイト』は映画史に残る傑作になってしまいました。

そして、今回の作品。

ノーラン(兄弟)がどういう方向性に舵を切るのか。『ダークナイト』の興行的な成功によって、何をやっても許される権利を得たノーラン兄弟。といっても、『ダークナイト』と同じ事をすれば失敗するのは目に見えています。

そこで、アン・ハサウェイのキャット・ウーマンが登場するわけですよ。

「ああ、そうきたか」

と。

つまり、結果的に『ダークナイトライジング』は、「アメコミヒーロー物にリアリティを持ち込む」という味付けをもう一度『ビギンズ』の時に戻した上で、今度こそ成功させようと試みているのだと僕には思えました。

これはノーラン(兄弟)もなかなかの根性の持ち主と言わざるをえない。

しかも、まんまと「やってのけ」ている。勿論この作品の成功は『ダークナイト』や『インセプション』の経験に立脚しているはずですが、『ビギンズ』で批判されたカードであえて勝負に出るという博打を選択した決断は賞賛に値する。

それぐらい『ダークナイト』の影を引きずっていないんですよこの作品は。

そして、「ああいうのが観たかったんだろう?」というぐらい自作の『ダークナイト』を過去にあっさり置いてきている感じなんですね。

それでいて『ビギンズ』の時とは明らかに違う、まさかの『燃えるアメコミヒーロー』に仕上がっているのです!(ここ重要)

何度も引っ張っていますが、要するに、アン・ハサウェイのキャット・ウーマンが最高にいいんですよ!

だから僕はこの映画大好きです!


バットマン・リターンズ』でミッシェル・ファイファーの演じたセリーナ・カイルことキャット・ウーマンは、僕の中で「この世で一番好きなマスクをつけた女性」なんですが、そういうマスクフェチを差し引いても、この作品のアン・ハサウェイ演じるセリーナ・カイルは魅力的!

キャット・ウーマンが登場すると決まった段階で、『ダークナイト』的(つまりノーランの大好きな『ヒート』的)なテイストは無理なことは明白で、「ああ、アメコミヒーローモノに戻すんだな」と合点がいったわけです。

・・・

<以下ネタバレ>

・・・

ダークナイトライジング』は実際には傷の多い作品です。『ダークナイト』ですらそういう傷は多いので、ノーランはそんなに完成度の高い作品を作るようなタイプではないのでしょう。それは今までの諸作からも明らかです。

はっきり言って164分なんてどう考えても長過ぎますし、詰め込みすぎです。時間の経過も説明不足ですし、そもそもこの手の映画で季節が巡るなんてどういう判断だ? って感じですし(でも、雪の降るゴッサムは大好きです)。

マイケル・ケイン演じるアルフレッドの感情の流れはご都合主義ですし、冷静沈着で観客の心の拠り所でもあったモーガン・フリーマンのルーシャス・フォックスはオロオロしていますし、ベイン(と黒幕)の目的は結局ただの核によるテロだし、挙句の果てに核爆弾の決着を「遠くで爆発させりゃいいだろう」という、相変わらず核兵器に対する認識の間違いをおおっぴらにやるし。きのこ雲なんて失笑モンですよ。

それでも、そういう傷を差し引いても、バットマンが『ダークナイト』で陥った世界から(作品としても)這い上がろうとあがく姿はなんとも言えない「燃え」に満ちていましたよ。そもそもそんなことになったのが「(ムラムラ……やっぱりバットマンになりてええ)」という実にアメコミヒーローらしい自業自得なブルースの巻いた種ってあたりも妙に清々しい。アルフレッドがいなくなったのも「だからいったのに」と言わせないためとしか思えないw

そして、これはちょっと驚いたのですが、ノーランがさんざん批判されてきた「アクション演出が下手」って弱点を、あえて自虐的とも言えるアクションだらけの脚本にしてみせたところ。これも根性があると思いました。ところがこれが実に燃える。格闘シーンの下手さ加減を「じゃあ、やってやる」と言わんばかりにベインと二回も真正面から「殴り合い」で闘わせる。ほんとマゾなのかよと笑ってしまうようなシナリオなのです。ただ、この殴り合いもベインを演じるトム・ハーディーがビルドアップしたムキムキマッチョな肉体で説得力をもたせている。チャームポイントである口をマスクで塞がれているので、実に損な役回りですが、「どうせヒース・レジャーと比べられんだろ」とヤケになってしまっているかのように吹っ切れた芝居をみせてくれます。それぐらいバットマンをボゴボゴにするという実に説得力のある敵を見事に演じています。

あれだけネタバレを避けてきたのに、まさか映画秘宝のリアム・ニーソン特集で「再登場」を知ってしまった、ラーズ・アル・グールの再登場も『ビギンズ』に対する補填でしょうし、全編を通してさんざんフラッシュバックされる映像も『ビギンズ』であることも上述のようにノーランの意地なんでしょう。そもそも、フラッシュバックっていう演出がはっきり言って完成度を下げているんですけど、それすらも、『ダークナイト』でジョーカーの魔に絡め取られた「ああだこうだ言いたい映画オタク」に対してレジストしているように思えてある意味痛快でしたよ。


で、

僕がこの映画を大好きな理由は、やっぱりゲイリー・オールドマン演じるゴードンなんですよね。『ビギンズ』の感想でも『ダークナイト』の感想でも書きましたが、この三部作って結局ゴードンとブルースの物語だったんじゃないかと思うんですよ。両親が殺されたブルースを優しく慰めたゴードンの存在が、ブルースの正義の心を支えているわけです。それが、まさかこの完結編で円環が閉じるという大感動。

あのゴードンに自分の正体を仄めかすバットマンのシーンは、一気に涙腺が決壊しましたよ。

・・・

原作でもキャット・ウーマンはバットマンと結婚したりするらしいんですが、まさかノーラン版のバットマンでそんなアメコミ的展開が用意されているっていうのも痺れました。人間の時のブルースは愛情を最も残虐な形で裏切られるんですけど、逆にマスクマン同士のキャット・ウーマンとはキスまでしてしまう!! あのシーンはこの映画一番痺れましたよ。いやマスクフェチは差し引いても。

だから、最後のアルフレッドが目撃したシーンを観客の想像に委ねず、ちゃんとセリーナ・カイルと居る映像で見せてくれたことに僕は感謝したい。ノーラン最高だよ!

・・・

インセプション』でノーラン組に参加したジョセフ・ゴードン=レヴィットも、相変わらずの儲け役。ストーリーの語り部であり、まさかのロビンだったというラストまで、そこまでアメコミモノを目指していたのかとニヤニヤしてしまいました。

・・・

ハンス・ジマーの音楽も相変わらずケレン味の足りないノーランの演出を音楽でしっかりとサポート。特にバットマンがいよいよ復活して疾走してくるシーンや、バットマンとキャット・ウーマンが横に並んで歩く後ろ姿のショットなどはジマーの音楽で数倍盛り上がりました。

相変わらず不意打ちの感動シーンでは泣かせる音楽ですし、ここだけは外せないとばかりにエンディングではやっぱり盛り上げてくれました。


・・・

ダークナイト』みたいな映画を期待している人には肩透かしになると思うんですが、スーパーナチュラルな要素を排除した『アメコミヒーローモノ』として、これだけスケールの大きな作品を作った功績は大きいと僕は思います。


それに、まあ、あの、アン・ハサウェイがいいし!


大変満足しました。

・・・

IMAXでの2Dは初めてなのですが、眼鏡なしによる画面の広さは圧倒的で、IMAXシーンの映像クオリティが高すぎてパナビジョン撮影の部分が荒く視えるという欠陥までw

そして、IMAXの天井知らずの音響が凄まじい。特に低音による効果は絶対に家では味わえない圧巻のシロモノでした。一連のシーンでは、「これIMAXで観ない人のことをどうかんがえているんだろう?」と心配になるほどでした。

パナビジョン撮影のシーンは上下のマスクで、IMAXシーンは上下全開になります。

パナビジョン撮影のシーンがそれほど高クオリティとは思えなかったので、4Kでの上映でももう一度観てみようと思います。サウンドのほうもどうなっているのか気になるし。

ただ、IMAXに観に行ける環境であるなら、間違いなくそちらを選択すべき映画なのは間違い無いです。


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