男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

シネスイチ板橋プログラム8『バットマン ビギンズ』

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「Never!」

いよいよ公開の迫ってきた『ダークナイトライジング』
とりあえず予習ということで一作目の『バットマンビギンズ』をブルーレイで観直す事に。

実を言うと、『ビギンズ』はノーラン監督が目指した「現実世界の中のヒーロー」という図式がしっかり確立されていないように思えて、初見時はあまり好きではありませんでした。今回観直してみて、やはり「忍者」などが登場する冒頭部分に白けていたんだと再確認。日本人から観たらどっちらけというのを差し引いても、回想の入り方が極めて不自然で巧くいっていませんし、クリスチャン・ベイル演じるブルース・ウェインがあまり魅力的ではない。

ただし、舞台がゴッサム・シティに戻り、ウェインがバットマンとして行動し始めるようになってからは徐々に面白くなってくる。

それというのも、マイケル・ケイン演じる執事のアルフレッド、モーガン・フリーマン演じる技術担当のルーシャス・フォックス、ゲイリー・オールドマン演じるゴードン巡査部長らが登場することで、観ている方がどっしりと安定する。例えばティム・バートンの『バットマン』も、ジャック・ニコルソン演じるジョーカーが出ずっぱりなので観ていて終始安定しているのだ。やはり役者の力というのは大きいと痛感。クリスチャン・ベイルがその域に達するには『ダークナイト』を待たなければならない。

上述の三人は登場シーンはそれほどないにも関わらず、交代交代に出てくるので安定感が途切れないのだ。

「なぜ見捨てないんだ?」と問われて、「決して」と即答するアルフレッドが素敵。

スケジュールが合えばどんな作品にでも出ると公言しているマイケル・ケインだが、どの作品でもキチンとベストの仕事をこなすあたりのプロ根性が素晴らしい。おそらくこのシリーズも世間が思うほどマイケル・ケインの中でのウェイトは重くないのだろうが、逆に言うとこのシリーズでもキッチリと執事のアルフレッドを軽妙洒脱に演じて大変魅力的だ。マイケル・ケインがいなかったらこの作品がどれぐらいつまらなかったか想像するのはたやすい。

ブルースとアルフレッドの関係は実に面白くて、ブルースは最初からバットマンの事を隠そうともしないばかりか、積極的に計画にアルフレッドを巻き込んでいくし、アルフレッドの方も当然のように何の疑問も口にせずそれに応える。中盤の億万長者ならではの計画推進方法と洞窟の中でふたりでネチネチと作業を続けるあたりは、『アイアンマン』と並ぶDIY精神が炸裂していて大好きです。ここらあたりは『ダークナイト』ではトレードオフになってしまった魅力でしょう。

「用途を誤魔化すためには大量に発注しましょう」「いくつぐらいだ?」「一万個ぐらい」「それだけあればスペアには困らないな」

ダークナイト』でアルフレッドも実は色々とやんちゃだった過去が仄めかされるが、まったくどういう事態にも動じないあたりにその一端が垣間見れる。まあ、何にしても二人の皮肉の応酬は観ていて和む。『ダークナイト』でも健在で、唯一といっていい息の抜けるシーンでもある。


個人的に今作で最も大きな収穫はゲイリー・オールドマン演じるゴードン巡査部長。

口ひげとメガネで今までの狂気混じりの芝居を見事に封印し、実直で家庭的で正義を愛するゴードンのキャラを的確に演じたゲイリー・オールドマン

一時期のゲイリー・オールドマンと言えば、「生き残った映画が殆ど無い」「最期は爆死」と揶揄されるほど殺伐とした役柄が殆どだった。結婚して子どももできた事で、一念発起心機一転したそうで、『ロスト・イン・スペース』あたりから軽妙な役柄を演じるようになり、『ハリー・ポッター』シリーズで一躍子どもたちも観られる映画にレギュラーで抜擢。そこでこのゴードンである。そもそもゲイリー・オールドマンが警察官というだけで一時期の彼を知るならどんな冗談だと思うほどである。しかも不正を憎む側って!

しかし、底知れぬ演技力で見事にバットマンに振り回されながらも正義の為に奔走する愛すべきキャラクターを熱演。


クライマックスでタンブラーを操縦しての大活躍のすえに、渾身のガッツポーズ。これだけでご飯がおかわり可能。

今作で「警部補」、『ダークナイト』で警視総監に昇進してくゴードンを観ていると、このシリーズは実はゴードンが主役なんじゃないかとも思える。実際『ダークナイト』でも語り部がゴードンとなって終幕を見事に飾っていたし。『ライジング』でゴードンがどういう活躍(酷い目)をするか楽しみだ。

・・・

シリーズを通してオープニグクレジットは出ず、バットシンボルだけが朧気に姿を表すだけのオープニング。ビギンズではコウモリの群れがバットシンボルを朧気に形作る。シリーズの幕開けらしく、夕暮れの琥珀色をイメージカラーとしているようで、全編もそういう色彩で統一されている。


最初にそのデザインを観たときは「こんな無骨なデザインで大丈夫か?」と思ったバット・モービル=タンブラーだが、中盤のアクションで見せる「何もかも蹴散らしての爆走」には素直に快感を覚える。ヘリコプターのサーチライトで捉えられる爆走ショットは、「現実世界の中のヒーロー」を的確に表現していて素晴らしい。こういったショットが奇跡的に全編を覆い尽くした事が『ダークナイト』の成功の理由だと思う。


個人的にはこのぐらいアメコミらしさの残るデザインのバットスーツが好き。『ダークナイト』の改造されたスーツのシルエットはアーマー寄り過ぎる。

・・・

『ビギンズ』の時も音楽が妙に印象深くて、サントラを聴き込んでいた。今回観直すと『ダークナイト』に連なる音楽の付け方の一端が垣間見える。それでもまだまだ従来のヒーロー映画の音楽にとらわれている部分も多く、『ダークナイト』の異様さはまだ感じられない。

バットマン ビギンズ オリジナル・サウンドトラック
サントラ
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音楽にしてもそうだが、結果論で言うとノーランにとって『ビギンズ』は『ダークナイト』の叩き台であり、様子を探る段階だったのではないかと思う。ラリー・フランコが参加しているプロデューサー陣や、デヴィッド・S・ゴーヤーによる原案などにしても、「アメコミ映画」という呪縛からは解き放たれていないように思える。それがこの作品の魅力でもあるし欠点でもあるように感じられる。

何にしろ、よくぞこの映画の後に『ダークナイト』を作ったもんだと素直に衝撃を覚える訳だが。


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