男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

シネスイチ板橋プログラム6『ブレイブハート』


ロバート・ブルースの物語

今晩のシネスイチ板橋はメル・ギブソン監督の『ブレイブハート』

1995年の作品で、アカデミー賞の作品賞、監督賞、撮影賞、音響効果賞、メイクアップ賞を受賞し、その5部門どれもが納得のいく傑作です。

ジョン・トールによるじっとりと湿気たっぷりに描かれたスコットランドの描写(撮影はアイルランドだそうですが)や、シネスコを存分にいかしたカメラワークが素晴らしい。

また、この映画はおおっぴらに語られることは少ないようですが、「アカデミー賞受けするような題材でオブラードすれば必要以上の残酷描写が許される」という新しい地平を開拓した映画の一本でもあります。その2年前、スピルバーグが『シンドラーのリスト』で、「ホロコーストを描いてるんだからいいでしょう」という大義名分のもと、恐怖映画真っ青の演出を全編に展開。続く弟子筋のゼメキスが『フォレスト・ガンプ』によって「コメディなんだからちょっとしたスパイスだよ」という大義名分で、ベトナム戦争のシークエンスを異様なリアリティで展開、舌が麻痺するほど効き過ぎる味付けだったが、その後のお涙頂戴でまんまと非難を回避。そこへ続くまさかのメル・ギブソン参戦の残虐路線がこの作品です。この作品の大義名分は歴史劇というモロにアカデミー賞受けする題材でしたので、それならばとメル・ギブソンが育ちの良さを最大限に活かして、「部位欠損は当たり前のリアリティ溢れる肉弾戦」を合戦シークエンスで展開。なので、メイクアップ賞受賞は当然。

手首をオノで切断をまさかの1カット処理

この驚愕のスプラッター描写にとどまらず、脳天に突き刺さった斧を抜くときにグイっと抵抗が描写されるマメな演出や、ダガーで顔面の鼻面と眼球の真ん中を突き刺す描写、鉄球で相手の顔面を一瞬で粉々にするなど細部に渡って的確なショック描写を抜け目なく挿入。これが全編を貫く「中世なんだから接近戦なんだよ」精神をことさらに強調することに成功。作品に異様な緊張感を充満させている。

思うに、この作品を観たスピルバーグは「しまった、直接やっちゃっていいんじゃん」と思ったに違いなく、後に『プライベート・ライアン』で戦争映画という大義名分のもと、スプラッター映画を我が物とする。

そして、この映画がただの残虐映画にとどまっていない点は終盤に展開される「拷問」シークエンス。ついにここで「あ、そういうことだったのか」と一部の観客が膝を叩く。つまりメル・ギブソンクリント・イーストウッド同様「ドM俳優」としての自分を満足させるためにこの映画を作っているのだ。この系譜は現在ダニエル・クレイグが「拷問俳優」として後を継いでいるが、それぐらいこの10分に渡る(!)超弩級に残酷な拷問シーンは凄まじい。しかも、何が凄いって一切直接描写は無いのにも関わらず、観客の脳内へ否応なしにまざまざとビジュアルが突き刺さってくる演出力。


錆びついた拷問道具を見せつける精神的攻撃

まったく省略なしに展開するこの拷問シークエンスは、やはりまったく省略なしで展開した『プライベート・ライアン』の冒頭部分に相当するライド感。観客が誰一人望んでいないこの絶叫ライドに強制乗車させるメルギブの底の見えない黒さ。


麻袋をかぶった拷問執行人たち

夢に出ること請け合いのビジュアル。黒ずんだ十字架型の拷問台座など、美術もこれ以上ないほど完璧なワーク。


ところがこの映画の意地の悪さは、主人公ウィリアム・ウォレスと奥さんとの切なすぎるラブ・ストーリーを軸にしている事だ。歴史劇というジャンルとして作られながらも、作品としてのアプローチはウィリアム・ウォレスの個人的な復讐がベースとしてあるので、観ている方はどうにも感情移入してしまう。

どういうわけだか感動してしまう要因の一つがジェームズ・ホーナーの音楽。合戦シークエンスの燃え度や、全編に渡って泣かせるフレーズが続出するスコアだ。賛否あるかもしれないが個人的にはこのサントラは愛聴盤である。2年後には『もののけ姫』で久石譲にパクられ、あろうことかホーナー本人も『タイタニック』で部分部分を使いまわすお得意の挙に出るが、まあそれはこの作品には関係ない。

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個人的にこの作品で一番感動するのは貴族の一人であるロバート・ブルースの生き様。実際にも彼がその後スコットランド独立を指揮することになるんですが、彼が癩病の父親にまったく頭があがらないまま、何度も何度もウォレスの期待を裏切っていく。その度に父親への反発が強くなり、ついに最後はきっぱりと決別する。そして、ウォレスの意思を継いで反旗を翻すことになる。このストーリーラインが、敵対するイングランドのダメ皇太子と対になって描かれる部分が好きなのです。どちらも向こうの映画ではお得意の「父親との関係」なわけですけど、ウィリアム・ウォレス自身が強制的に父親と死別したことで二人よりも早く精神的に大人になっているのかもと思えて、ますます興味深く感じるわけです。

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ジョン・トールシネスコ芸術


初勝利を飾ってみんなから「ウォレス万歳」と鼓舞されるも、失ったものは戻ってこない哀しみをアオリの構図で表現。


戦場に到着したウォレスをカメラがパンフォローすると眼前に大部隊が展開している。大画面で観ることで効果が倍増するショット。


有名なウォレスの檄。「フリーダム!!」 望遠ショットの効果で迫力満点。


合戦後の死屍累々の大パノラマ。

もう一つの合戦では死体を確認しに来ている家族たちの描写もあり、リアリティ満点。


裏切りがウォレスにバレたブルース。逃した後の心の穴をフレームの右側を大きく空けて表現している。


こちらも裏切った貴族が、ウォレスの復讐に怯える悪夢のショット。超望遠による圧縮された映像が迫力満点。


ソフィー・マルソーメル・ギブソンのラブ・シーン。単純に美しいショット。


ウォレスの手から落ちる亡き妻のハンカチを真下から捉えた印象深いショット。

この映画では通常のシーンでは雨の多い湿気った風景が多いのだが、ここぞというシーンでウォレスの心を象徴するかのように真っ青な空が背景になる。そのどれもが印象深い。


映画を象徴する地面に突き刺さった両手剣。中盤でのリフレインとしてラストを締めくくる。どちらも大変美しいカット。


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『ブレイブハート』は当時劇場に行けず、後でLDで観直して大変ショックを受けた作品です。ずっと大画面で観たいと思っていたので今回その効果を確認できたのは大きかったです。メル・ギブソンはご存知のようにこのあとさらにタガが外れて己の道を突っ走るわけですが、個人的にはラブ・ストーリーとしての軸を持っているこの作品が唯一好きです。他の作品はまったく理解できませんw

今回奥さんと一緒に観たのですが、終わった後「夢にみそう」とかなりの不評でした。観ていて楽しい気分にはなりませんが、エモーショナルな気分になりたい時にはオススメです。


ブルーレイはパナソニックが手がけたエンコードが大変良質で、画面の鮮度が非常に高い。DTS-HDロスレスサウンドも合戦シーンでのド迫力や、拷問シーンの気味悪いSEで効果を発揮していますw パッケージとしてもかなりオススメの作品。


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