男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

シネスイチ板橋プログラム1『ジョン・カーペンターの要塞警察』

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遂に落成した我が家の格安ホームシアター。名付けて「シネスイチ板橋」。以前から最初のプログラムは何にしようかなと思っていました。僕はシネスコサイズの映画が大好きなので、スクリーンのアスペクトも1:2.35のシネスコサイズにしました。なので、上映作品のセレクションとしては、「映画館で観られなかったシネスコサイズの映画」を基本ベースにしたい。

そこで真っ先に思いつくのはジョン・カーペンター

カーペンターと言えばシネスコというぐらい、彼はシネスコサイズにこだわっている監督です。テレビ用の作品と学生時代の中編を元にしたデビュー作『ダーク・スター』以外の自作はすべてシネスコサイズで撮影されています。曰く「すべての芸術は長方形なんだ」

そのカーペンターのシネスコ第一作が、今回選んだ『要塞警察』(Assault on Precinct 13)。


カーペンター映画との出会い

僕とカーペンターとの出会いは映画を好きになった初期の頃、1982年10月に水曜ロードショーで放送された『ニューヨーク1997』を観た時です。小学5年生の僕はそのストーリーと主人公のスネークに強烈に魅入られたもんです。なので、僕の中でのカーペンターはホラーよりもアクション活劇の作家として最初に認知されたわけです。

その後レンタルビデオの初期に観てしまった『遊星からの物体X』でホラー作家としてのカーペンターにヤラれるわけですが、とにかく最初は『ニューヨーク1997』なのです。

レンタルビデオが普及し始めた頃、以前から噂だけは知っていたカーペンターの商業デビュー作『要塞警察』が遂にビデオ化され、近所のレンタルビデオ店に入荷したのを即借りし、家で夢中になって観た時のことは鮮明に覚えています。

まさに『ニューヨーク1997』の原点であり、カーペンターのエッセンスが濃厚に叩きこまれた傑作でした。

誰もが知っている極悪人ナポレオン・ウィルソンのキャラはモロにスネーク・プリスケンにつながりますし、極悪人の彼が巻き込まれて警察に手を貸す事になる展開も同様です。カーペンターならではの妙なユーモアもバッチリですし、実は『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』以降のフォロワーの中では最も完璧に『籠城映画』を成功させているのも素晴らしい。

カーペンターは大好き過ぎる西部劇『リオ・ブラボー』を現代に置き換えてこのシナリオを発想していますが、あまりにたぎる作家性が完全にオリジナリティを付与させており、この作品はアメリカよりもヨーロッパで高く評価されることになったようです。まあ、要するにカルト・ムービーとなったわけですね。しかし残念ながら、日本では劇場未公開。


シネスコサイズとトリミング問題

さて、話を「シネスコサイズ」に戻すと、カーペンターの映画を何本もビデオで観ている内に、遂に彼の映画を劇場で観る機会が僕に訪れます。『ゴーストハンターズ』がそれ。カーペンターの映画を劇場で初体験です。とにかく大笑いして楽しく観たのですが、このあたりから「どうやら奴はいつもシネスコサイズで映画を撮っているらしい」という情報が入ってきます。同時に、レンタルビデオやテレビで放送している映画はスタンダードにトリミングしており、トラック野郎やジャッキーの映画でクレジット部分が縦にグシャっと潰れているのがシネスコの名残であると気づきます。そうやって意識し始めると、左右がカットされているトリミングがどうにもこうにも気になり始めます。同時期に黒澤明監督の『椿三十郎』がテレビで放送された際に、キチンと上下に黒味をつけたシネスコサイズのノートリミングが放送されるに際して、「黒澤はテレビの放送時にトリミングを許さない」という情報を得てしまう。

こうなると僕の中で「トリミング=悪」という単純な図式が芽生えてしまいますw

そうなると機械的に画面を左右に動かすパンニング処理も気になって仕方なくなる。この瞬間にも画面の外に本来ならあるべき映像が隠れているのだ!!!

まあ、要するに僕のシネスコ好きは、スタンダード=テレビで映画の洗礼を受けてしまった子ども時代の反動の顕在化とも言えます。

そうこうしている内に、1980年代の末、『ダイ・ハード』の北米版レーザーディスクシネスコサイズをノートリミングで収録した事が発端になって、いよいよノートリミング収録ブームが巻き起こり、トリミング至上主義だったアメリカの家庭事情をレーザーディスク=マニアの所有物という一点突破で覆し、市民権を獲得。現在ではトリミング版なんてほとんど見かけなくなるほど劇場公開時のアスペクトがそのままソフト化されるようになりました。

そうなるとカーペンターの映画も当然シネスコサイズでの収録されることになります。

この『要塞警察』のレーザーディスクが北米で遂にノートリミング版で発売された時の喜びといったら! アナログトラックに音楽のみ収録されたり、ジョン・カーペンターの音声解説が収録されたりたまらないシロモノでした。

その後輸入盤スペシャルエディションDVD、日本版デラックスDVDと購入し、最終的に北米版ブルーレイを購入。

日本では劇場未公開のこの『要塞警察』をシネスコの大画面で堪能できる日が遂にやってきました。これぞホームシアターの醍醐味。


<以下ネタバレしまくりなので未見の方は要注意>

主人公のひとりイーサン・ビショップ警部補。黒人が主人公なのは『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の影響でしょう。移転する13分署の引き継ぎに駆り出されます。


余白が生み出すシネスコ構図のクールさ。

そして、ナポレオン・ウィルソンの登場。檻が開くとカメラがドリー&ズームでアップしていく大変印象深いファースト・ショット。でも外見はただのおっさん。カーペンターの言うには、長髪にして欲しかったのに撮影直前に散髪してきやがったそうですw ただし、この平凡な外見が、スネーク・プリスケンとは少し違う情に厚いナポレオン・ウィルソンというキャラクターにピッタリで、結果的にはOK。

がらんとした13分署の居残り作業中の面々。その中で女性職員のリーが登場。彼女が一大事に陥った途端にみせるタフネスさとクールさは、実はどのキャラクターよりもカーペンターらしさに溢れており、実に近代アクション映画における女性ヒロインのひな形であり究極系とも言えます。登場シーンではごく普通の職員にしか見えず、同僚のジュリー(演じているのは初期カーペンター映画の常連ナンシー・ルーミス)が典型的なオロオロな人物造形なだけに、いざとなってからの豹変ぶりに燃えます。『エイリアン』のリプリーから始まるタフな女性ヒロインのはしりと言えるでしょう。

このリーとナポレオン・ウィルソンとの言葉にしないタフな者同士の絆も本作のユニークな部分。愛情ともロマンスとも違う、何とも形容のしようがないクール過ぎる関係は唯一無二のかっこ良さだ。


仲間を警察に殺されたストリートギャングたちがほとんどセリフを発しないまま、徐々に武装化して町を徘徊する。サイレンサーを銃器に黙々と装着していく様子を運転席の正面から捉えたシネスコ構図が緊張感をあおる。カーペンター自身による印象的過ぎる音楽も徐々に緊迫感を増していく。

カーペンターは『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のゾンビを実際の人間であるストリートギャングに置き換えることで、結果的に今でも十分通用する暴力の恐怖を描き出すことに成功しています。ゾンビや感染者などとは違って、やつらは明確な自身の意志によって無差別殺人を行う。これは荒涼としたロスのロケ撮影の効果も相まって絶大な恐怖を生み出している。

その白眉がこの最初の犠牲者である少女の射殺ショット。いきなり無言で何の躊躇いもなく心臓を撃ち抜かれる少女。このインパクトは絶大。カーペンターはカットでアップにしたりせず、ひたすらクールなFIXでこれらの殺人シーンを冷徹に描く。このテイストも後の映画に与えた影響は大きい。

撃ち殺した少女を一瞥もせず、そのまま道路に転がったアイスクリーム屋を撃つギャング。この寒々とした演出はその後に続く「籠城」に一定の緊張感を持続させる。ストリートギャングをゾンビに置換させる手段として「まったく命乞いが通じない」=「説得のしようがない」という転換を持ち込むのが凄まじい。これも結果的に人間同士の不信感に根ざした薄ら寒い恐怖を先取りしており、本来この作品が目指している現代版西部劇にユニーク過ぎる付加価値をもたらしている。
この方法論はリドリー・スコットの『ブラックホーク・ダウン』で現代にリブートされる。

暗闇の中からシルエットで歩み出すビショップのショット。シネスコ構図の中で映像をシルエットで切り抜くビジュアルが美しい。

ナポレオン・ウィルソンのバックに配置された格子が、シネスコの中でグリッドのように見えてカッコイイ。

会うやつ全員に「タバコあるか?」と訊くナポレオン・ウィルソン。実はこの質問のリアクションで相手を伺っているようで、ビショップだけは「持ってない」のあとに「ソーリー」と付け加える。この一言に表情を変えるナポレオン。恐らく彼がこのあとビショップと共に戦うことを選んだ理由の一つがこのとき生まれた「敬意」かもしれない。

これぞカーペンターショット。横一列に並んだ人物を真正面からシネスコ画面で捉える。このクールさはその後のカーペンター映画の代名詞となる。


・・・

全編を初めて大画面で観てみた『要塞警察

初めてのシネスコに対するカーペンターの熱い思いが直接伝わってきて、「これが本来の『要塞警察』なんだな」と感動に打ち震えました。やはりシネスコサイズの映画は大画面でないとほんとうの意味では堪能できないという事がハッキリしましたし、ダイナミックな視点移動を演出の一つとして意識できるのも勉強になります。横移動や縦移動によるショットの与える効果も大画面とテレビ画面だと段違いです。

そして、なにより横一列に人物が並ぶ引きの真正面ショット。このカーペンターショットは絶対に大画面でないと真の効果を発揮しない事が分かりました。


いやあ、大画面はオススメです。



日本版のデラックスDVD。吹替版も収録され、カーペンターの音声解説もちゃんと収録されています。ただ、プレミアがついているのが残念。一度字幕で鑑賞している人なら今回鑑賞した北米版ブルーレイが1000円以下で購入できるのでオススメです。DTS-HD5.1chのリミックスサウンドも迫力満点ですし。

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要塞警察』といえば、このカーペンター自身によるサントラも忘れてはいけない。ただし、こちらも現在プレミア化してますね。まあブルーレイやDVDに音楽トラックのみが収録されているので、サントラのみを聴こうと思えば実はそれほど難しいことではありません。