男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

スティーヴン・キング読破計画第一弾『キャリー』

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クライマックスへの持って行き方が抜群

ずうううっと、それこそ何年か周期で決意するのですが果たせていない『スティーヴン・キング作品の読破』計画。初めて『シャイニング』を読んだ高校生の頃とは違い、キングの作品は殆ど翻訳されており、あとは自分の行動力のみという憎らしい状況になっています。思えば長編四作目である『ザ・スタンド』が待てど暮らせど翻訳されなかったってのが、あの頃の僕(ら)のモチベーションを下げていたんではないでしょうか?

まあ、もっとも、今となってはその『ザ・スタンド』の存在(物理的な)の圧迫感故に読破計画を躊躇っていたのも事実w

今回も挫折する可能性はありますが、とりあえず長編デビュー作『キャリー』を読みました。所要時間二晩。

・・・

デ・パルマの映画は大好きで、何度も観ていたりするのですが、原作であるキングの商業長編デビュー作は未読でした。今回クロエ・グレース・モレッツがリメイク版のキャリーに決定したというニュースを聞き、「それじゃ原作を読んでみよう」と思い立ったわけです。

デ・パルマ版ではシシー・スペイセクが演じたキャリー。あの説得力満点のキャスティングがあるだけに、クロエだと「ナンシー・アレンのいじめっこの方が似合ってるだろう」と思ったぐらいです。

では、原作はどうなのかというと、先ず「ガリガリ」の体型ではなく、どちらかというとポッチャリ。そして、実はシシー・スペイセクも意外に美人だったように、原作でもキャリーは「キチンと身奇麗にして着飾ると美人」という設定でした。しかも社交性も持っており、いよいよプロムの日には思い切って知的な冗談を言うほどです。

原作ではハッキリとキャリーがいじめられている原因は、あのキリスト教原理主義者の母親のせいであり、読者の彼女への感情移入が見事にうまくいっています。しかも、僕の大好きな「引っ込み思案だけど、頑張ってそれを克服しようとするのに、それがうまくいかなくて失敗するという不憫さ」が随所に炸裂するんですね。

であるからして、キャリーへの同情が半端ないことに。

・・・

クライマックスである「プロムナイトの大惨劇」に向かって、序盤から一点集中的に引っ張っていくキングの手腕も素晴らしく、様々な事後文献からの引用を本編と交錯させていく手法は古典的ながらも見事なまでに盛り上げていく。詳細なネタバレとも言える情報の開示をしているように見せかけて、実際には重要な部分はぼかされたまま進んでいく巧みさが圧巻であり、映画版で知っているとはいえ、焦らしに焦らして迎える大爆発のカタルシスが凄い。

そして、キングの演出力がまた絶妙。

豚の血が入ったバケツがひっくり返される部分で、視点を外にいるイジメっ子カップルに持って行き、中の様子が音でしか描写されない。次には遠くの自宅で胸騒ぎを覚えるスーの視点に変わって遠くに見える学校が炎上し始めて爆発する描写、講堂内から辛くも逃げのびて生き延びた女生徒の証言、などの視点の交錯を用いて更に「大殺戮」まで引っ張る。ここらあたりは本当に燃える。

・・・

キングにとってみれば、分量的には「短篇」と言ってもいい長さの作品なので、プロットのシンプルさと描写のみで押し進めるキングの筆力が合致して完成度の高い作品になっていると思います。『霧』もそうですし、各種短篇もそうですが、キングって「このぐらい」の長さの作品だと吹っ切れた感じがしていいです。もちろん大長編は大長編でディティールの筆圧がさらに高まって別次元の楽しさがあるわけですけど。


基本的に執筆順もしくは出版順に読もうと思っていたのですが、とりあえず手元にあるやつからやっつけていこうと思います。

という訳で次は『クージョ』


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しっかし、キングの作品ですら過去の作品は殆ど品切れ状態ですよ。まあ、特に今はブームというほどでは無いですからね。もっとも、手に入らないっていう作品は今のところ無いはずですから、そこんところは安心でしょうか。



キングも気に入っているという映画版。原作を読むと見事に映画化していると思います。クライマックスの引っ張り方もデ・パルマらしい手法で見事ですし。そういえば、ウィリアム・カットの頭にボーンってバケツが落ちるのが原作のままだってわかって驚きました。